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第5回事業承継セミナー報告書

第5回事業承継セミナー報告書

第5回事業承継セミナー(2019年8月5日)

2019年8月5日19時より、第5回事業承継セミナーを法政大学学院において開催した。本セミナーの特色は、事業承継の専門化による話、及び現在事業承継を行っている或いは今後予定している後継者の経験談を聞けることである。

 

事業承継前と承継後におけるM&Aの活用

株式会社日本M&Aセンター法務室 辛嶋如子

“中小企業のM&Aは企業と企業の結婚である。”

選ばれる第三者承継

中小企業がM&Aを利用する場面には、以下の3つが挙げられる。

  • 後継者不足問題を抱えた事業承継におけるM&A
  • 社会環境や事業の先行きを考慮し、会社の成長のために積極的に行うM&A
  • 新規事業や海外展開のためのM&A

この中でも、事業承継におけるM&Aが最も多い。また、事業承継における経営者と後継者の関係では、親族内承継が55.4%と最も多く、役員や従業員への社内承継19.1%、社外の第三者への承継16.5%と続く。M&Aは、社外の第三者への承継に含まれる。(データ出所:中小企業白書2019年版)

社外の第三者への承継が選ばれる背景には、以下のような事情がうかがえる。

① 経営者の子息が承継しない:現経営者の子息が都会や海外で働いている或いは専門職に就いている等の理由で、地元に戻り家業を承継する意思がない。これは、ファミリービジネスが今後抱える大きな問題である。

② 役員や従業員による承継がうまく行かない:例えば、営業に長けた従業員であっても、経営ができるとは限らない。また、経営者は金融債務を個人保証することが多い。親族内の承継であれば、株式や自宅などの相続に関して、事業承継を円滑に進めるための税制面での工夫がされている。一方、役員や従業員が承継する場合、数千万円の個人保証をした上で株式を買い取る覚悟ができず、躊躇することもある。

③ 廃業すると従業員が困る:特に地方では、“その会社があるおかげで、若者の雇用機会が確保されている”ことがある。このような場合、経営者が高齢になったことで廃業してしまうと、若い働き手が流出してしまう。地域のためにも事業承継により企業を残していく必要がある。老齢化によるケースとは別に、経営者が突然倒れ経営ができなくなるケースもある。従業員を守るため、やはり経営を継続する必要がある。

M&Aにより他社を承継する企業のメリット

企業の経営を引き受ける譲受会社には、以下のようなメリットがある。

  • 被承継企業は、事業に長年営んできた経緯で蓄積された取引構造を有していることがある。こうした取引関係には、新規参入では入り込むのが困難である。第三者承継によりこうした取引構造に参入可能となる。
  • 被承継企業は、優れた技術力を有している。
  • 承継により、川上・川下産業への進出が可能になる。
  • 承継により事業内容が充実し提供できるサービス範囲を拡張することで、ワンストップでの顧客対応が可能になる。

第三者継承における経営者の留意点

① 経営者個人が保証債務から解放されるか:事業承継により第三者に譲り渡す会社への個人保証だけが残ってしまうのは、現経営者としては好ましい状況ではない。経営者にすれば他人に渡ってしまう会社であり、自分ではコントロールできない経営に対する個人保証は避けたいものである。

② 譲渡後に課される義務はどのようなものか:事業承継により会社を譲渡すれば、譲渡側は相応の対価を受け取る。そのため、譲渡の際に開示した情報が真実でなかった場合などに、売り手としての損害賠償責任(表明保証)を一定期間負うこととなる。

また、リタイアした現経営者が承継後すぐに別会社を立ち上げて同様の取引を再開した場合、譲受会社の事業にとって不利な状況となる。そのため、一定期間は同じ業務を行うことはできないという義務が入るのが一般的である。(競業避止義務)

③ 譲受会社の承継(目的)は、経営者が想定しているものか:「事業承継後も、従業員を大切にして雇用を維持してくれるか」など、現経営者が望む経営が継続されるかは、確認しておきたいポイントである。

右腕経営者の継承問題から考えたこと

事業承継セミナーに以前参加した際、右腕経営者が一つの論点であった。経営者の妻は、来客の応接から従業員の相談まで幅広く対応する。従って、親子間で事業承継が進められる中では、右腕経営者と同様、“先代経営者の妻は自らの業務を続けることになるのか?或いはだれが引き継ぐことができるのか?”といった経営者の妻に属人化された業務の割り振りも考える必要がある。

事業承継のM&Aでよく用いられるスキーム

株式譲渡

事業承継で用いられる株式譲渡においては、現オーナー(経営者)が自己が保有する株式を全て譲り渡し、譲渡後の役員は、譲受会社から選出することが多い。また、経営者による債務の個人保証についても、譲受会社がその一切を引き受けまたは解除する。

非承継会社としても、会社ごと譲り受けてもらえるため、商号、従業員の所属先、取引口座などを変更する手続きが発生しないのも利点である。

譲受企業としては、非承継企業を子会社としてグループに招き入れることとなる。そのため、非承継企業の独自性を残しつつ、時間をかけてグループへの融合を図れることは利点である。一方、リスク的側面からは、表面化していない潜在的な負債も引き受けることとなるため、引受け前の調査は慎重に行う必要がある。

株式譲渡を実行するためには、少数株主を含めた全株主の意向を揃える必要がある。この点も考慮しておく必要がある。

事業譲渡

事業譲渡は、小規模のM&Aで特に好まれるスキームであり、会社の一部の事業を譲受企業に譲渡する。譲り渡す事業を選択できる利点がある。

一方譲受企業も、債務を避けて欲しいところだけを選択して引き継げる利点がある。(債務超過の場合などには例外がある)。

ただし、従業員の別会社への転籍、取引先や金融機関口座の変更手続が発生するといった、マイナスの側面もある。

会社分割

会社分割は、事業の一部を切り出す(分割する)スキームである。事業譲渡と異なるのは、一定の手続きを踏むことで包括的な承継が可能になる点である。包括的な承継の利点を享受するには、公告・債権者通知などの手間がかかる。そのため、その負担と事業譲渡による手続の負荷とを天秤にかけて、どちらのスキームを選択するかを決定することとなる。

事業承継の実務でよく見られるスキームは、新会社を設立する新設分割を行い、新設会社の株式を株式譲渡により譲受会社に引き継がせる方法である。これにより、譲受会社は分割された事業を営む新設会社を子会社として自社グループに取り込めることとなる。

平成29年度の税制改正後は、継続する事業の方を新設分割により新会社に移行し、既存の会社に残った事業を株式譲渡により譲り渡すといった手法が取られるようになった。このように、M&Aスキームはその時々の法律や税制を反映して変化していくものでもある。

株式譲渡が難しい可能性がある会社

  • 株主が分散していて意向がそろわない会社

譲受会社は、非承継企業の株式を100%取得することを条件とする場合が多い。株式が分散しているとその分株主管理の手間がかかる。従って、なるべく株式を集約しておきたいとの意向がある。また、未取得の株式が知らないところで承継され更に分散するリスクも避けたい。

 

  • 株券が紛失してしまっている会社

平成18年会社法改正以降は株券不発行が原則となった。それ以前に設立された株式会社であっても、株券を発行していない企業もある。一方で、株券を既に発行している企業も存在する。株券を発行している企業による株券の紛失は大きな問題である。

創業者からの事業承継であれば、過去の株主との連絡内容や株券の保管場所を認識しているものである。しかし、2代目以降の経営者にはこうした情報が共有されていないこともある。また、経営者が突然の不幸に見舞われた場合も、会社の重要書類や株券の所在が誰にも分からなくなることがある。

  • 株式の来歴が追えない会社

株式譲渡の際、譲受企業は取得する株式の来歴を株式発行に遡って確認する。そのため、議事録などの会社資料が見つからずに来歴が確認できないと問題になる場合がある。設立時の定款には設立時の株主名が記載されており、株式が親族承継されてきたかどうかといった推定ができることもあり、特に重要である。

M&Aのステップ

中小企業のM&Aは企業同士の結婚のようなものである。異なるのは、徹底して秘密保持に努める点である。そのため、双方当事者間における秘密保持は必須となる。

会社資料をもとに、面談などを通じて互いの相性を確認し、トップ面談を経て、条件交渉と共に基本合意の締結を行う。この時点で、譲受企業側に独占交渉権が付与されることが多い。その後、簿外債務や従業員への給与未払いの有無などの買収監査を、譲受企業が外部専門家を使って行う。買収監査を経た後、再度条件交渉が行われ最終合意の締結に至る。めでたくM&A成立となれば、クロージングを迎え手続き終了となる。

しかし、双方当事者の共通したゴールは、非承継企業をいかにして譲受企業に融合し成長させていくかである。そのため、M&A成立後も、Post-Merger Integration(PMI)を通じて協力してスムーズな経営移管を行っていくことが望ましい。

中小企業の株価算出について

事業承継における中小企業の株価算定は、基本税務上の計算に基づく株価が適用される。一方、M&Aにおける株価算定は、承継により享受する利点や株式の希少性なども考慮して行われる。

 

 

後継者の覚悟

株式会社前澤工務店取締役 法政大学大学院特任講師 前澤優太

自身が経営していく覚悟をする。

そのためには、後継者自身の願望や価値観を伝統事業に加え、

生涯をかける仕事を自ら作っていくことが大切だ。

 

祖父の代から続く家業の株式会社前澤工務店は、今年で創業70周年を迎えた。私自身、その3代目後継者である。

家業を継ぐのは自分しかいない。高校生のとき、その現実と向き合い真剣に事業承継を考えるようになった。大学は建築学科に進み、その後中堅のゼネコン企業で3年半の修行を通して建築会社の社長となる準備を積み重ねていった。26歳で、後に承継することとなる株式会社前澤工務店に入社すると、仕事をこなしながら5~6年かけて1級建築士の資格を取得、専門性に磨きをかけた。その後、経営の知識の重要性を感じ、法政大学大学院のMBAコースで経営学を学んだ。

会社では、個人客や設計事務所から主に住宅の新築や改修の仕事を請け負っている。従来、木造建築が中心であったが、マンション、ビル、商業施設、病院なども手掛けるなど、成長路線を辿っている。

 

日本企業の置かれた環境とファミリービジネス

スイスのビジネススクールIMDは、雇用統計や貿易統計、その他データを基に世界63カ国の競速力の推移を調査している。日本は1992年ごろまで第一位、その後徐々に順位を落とし1997年には一気に17位に下がった。2019年は30位に転落するとされている。別の視点ら日本の経済競争力を捉えると、1990年代から2000年にかけてGCPの成長を牽引していた生産人口の増加も、今後は期待できない。競争力を失った今、日本企業には従来とは違った経営が求められる。このような社会経済的状況を基に、ファミリービジネスについて考える。

  • ファミリービジネスの収益性、企業価値は一般企業を上回っている。
  • 創業200年を超える企業は、我が国には4000社近く、世界一である。世界2位のドイツが2000社弱であり、約2倍の差がある。
  • 我が国における創業100年以上の企業数は、5万社程度と推定される。

ファミリービジネスを表すスリーサークルモデルは、オーナーシップ(所有)、ファミリー(家族)、ビジネス(経営)の3つから成り立っている。ファミリービジネスは、これら3つが重なり合う、非常に複雑なものである。

我が国における企業数は約380万社、そのうち中小企業は99.7%を占める。従業者数に着目すると、中小企業で働く約336万人(全体の約70%)に対し約97%がファミリービジネスに従事している。一方で、老舗企業の倒産・休廃業・解散などのデータにも表れている通り、ファミリービジネスにおける経営者の高齢化や後継者難は大きな問題である。ファミリービジネスが休廃業や倒産に追い込まれることは、我が国の経済活動や伝統技術の承継にとって大きな損失である。

事業承継で大切なこと

本来、事業承継とは企業の伝統を再評価する機会となるべきである。伝統とは、風習やしきたりなどであるが、特に重要なのがそれらの精神的側面であり、事業承継に際し再確認すべきでものである。同時に、事業承継は革新を起こす機会でもある。ここで大切なのは、後継者自身が新たなチャレンジをすることである。

代々続いているファミリービジネスが行っている経営

① 後継者の生育感と経営感

・日常生活の中にある仕事

・生活や仕事の価値観や取り組み方の共有

・自分がファミリービジネスに人生を注げるか

② 見えない拘束

・約束された後継者(長子相続制の束縛)

・甘未な感覚(後継者として大切に扱われる)VS親の望む人間になろうとする脅迫感

・(承継を)やらない選択は存在しない

③ 父(先代)との対立

・上司と部下の関係。だが親子でもある(上司から言われて受けいられることも、父から言われると反発してしまう。)

・やり方、価値観の違い

・意見が通らない

 

後継者の戦略

伝統事業の継続

・既存の経営資源の活用

・家族としてのアイデンティティ

・顧客、従業者、取引先との関係(=人から求められること)

革新的新規事業

・時代の流れに沿った事業

・組織、戦略、生産性、物流、仕入れの革新(他者・外部からの視点を取り入れる)

・自分のやりたいことの実現(=自分がもとめていること(願望・価値観))

外部・周辺環境への配慮

・周囲への協力

・地域への貢献

・ホワイト企業(長く続けていくために(=みんなが潤うように))。ブラック企業はNG

継ぐ覚悟

覚悟とは、観念すること、あきらめること。事業承継は、そう簡単には行かない。だから、あきらめて腹をくくる覚悟が必要である。覚悟と言っても様々であるので、ここでは事業承継に係る覚悟を3つに分けた。

① ファミリービジネスに参加する覚悟を決める

ファミリービジネスに自身の人生を注げるという覚悟を決めてから入社する。

② 社長交代までに経営者となる覚悟を持つ

後継者の会などから情報を得て親子協業で経営者になる準備を進める。

③ 自身が経営していく覚悟をする

伝統事業だけでなく後継者自身がどのような仕事をしたいかを問い、ファミリービジネスに生涯かけていく仕事を作っていくことが大切である。

まとめ

後継経営者の育った環境や過程は、自身のその後の経営・経営感に密接な関係がある。経営においては、伝統的な事業と自らの新たな目標とを重ね合わせ、ファミリービジネスの競争優位を築いていくことになる。その結果として、永続性や売上増加がある。

後継者難など後ろ向きの話題が多い中で消極的になる後継者も多い。しかし、事業にやりがいを見つけることで事業承継に前向きに取り組んでいくことができる。そのためには、伝統の事業に自己の願望や価値観を加えていくことが必要である。そこからは、イノベーションさえも起こり得る。