事業承継における後継者からみた現状と課題
法政大学IM総研ファミリービジネス研究部会 幹事 内田 聡
事業承継の現状
中小企業経営者の年齢のピークは2015年に66歳となり、引退する年齢は平均67歳(中規模企業)から70歳(小規模企業)となっている。この背景には、中小企業の後継者不足がある。事実、廃業を予定している中小企業の割合は非常に大きい。これら中小企業が挙げている廃業の大きな理由は、“当初から自分の代で廃業を予定していた”(約4割)、“事業の将来性がない”(約3割)であった。これに次いで、“子供に継ぐ意思がない”、“子供がいない”、“適当な後継者が見つからないと”いった事業承継に関する理由が続き、合わせて全体の約3割であった。
後継者から見た事業承継の課題
事業承継問題において、資産や経営権についてはセミナーなどの機会で数多く取りあげられてきた。一方、経営そのものの承継に関してはあまり語られてこなかった。資産や経営権は事業承継の要素の一部であり、これらを含め人(経営)、資産、知的財産の全てを視野に入れて事業承継を進める必要がある。換言すれば、財務諸表に載っていない部分を含め人・物・金・情報(経営ノウハウ)の全てを引き継ぐことである。また、見えないところで困難な問題を内包していることもあり、その場合事業継承にも時間がかかる。
困難な事業承継を控えた後継者の多くは、実際どのように承継をすすめてよいか分からずに困っているのが現状である。
後継者が行うこと
事業承継において、経営者のリーダーシップは重要な要素である。かつては、「俺について来い」というスーパーマン的なリーダーシップ(支配的リーダーシップ)が主流であった。現在は、「協力者を作り周りに働いてもらう」と考える、サーバントリーダーシップが求められる。先代経営者の支配的リーダーシップ型の経営から、サーバント型の経営へ移行するにあたりポイントとなるのが、① 経営理念にしっかりとした軸と通し、② それに基づき全員参加型の経営体制を築くことである。
事業承継を行う上で重要なステップは、① 経営状況・経営課題の把握(見える化)と、② 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)の2つである。
見える化には、事業の見える化、資産の見える化、財務の見える化の3つがある。大切なのは事業の見える化であり、数字に表れない部分の中で、特に経営理念を引き継いで形にしていくことである。換言すれば、経営理念を明文化して共有していくことが重要となる。
磨き上げとは、強い経営力の元で儲かる企業を育てることである。他社に負けない“強み”と併せて求められるのが、効率的な組織体制の構築である。そのために、全員参加型の経営体制は欠かせない。
後継者は、事業承継をきっかけに『経営理念』を先代から引継ぎ、明確にし、『全員参加型経営』を推進していくことが重要である。
『第1回事業承継セミナー』報告書の前編を読む