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連載 第9回 新規事業としての多角化

イノベーション戦略と新規事業創出

前回は 情報の粘着性について説明しましたが、今回は新規事業としての多角化について解説します。

イノベーション戦略と新規事業創出(第9回) 玄場公規

新規事業の必要性

新しい事業分野を開拓しなければならない日本企業も多い。新しい事業分野への展開は、既存の事業とは異なる事業分野への進出であり、その意味では「多角化」と同義である。ここからは、新規事業を創出するための戦略、すなわち多角化戦略を論じる。

そもそも、多角化をすると収益が向上するのだろうか。この点については、数多くの研究がある。

欧米においては、多角化に関する定量的な実証研究が1960年代から行われてきた。例えば、アメリカ大企業111社に関する1947年から1957年のデータを用いて多角化と収益性との関連を分析した研究成果がある(Gort 1962)。また、同じようにアメリカ食品産業104社に限定して分析を行った結果も提示されている(Arnould 1969)。両者の研究とも、多角化度と利益率との相関関係を分析しているが、いずれも、多角化と収益性との間には有意な相関が認められないと結論づけている。

以上は、単純に多角化度と収益性を分析したものであるが、その後、多角化を戦略タイプに分けて分析した研究成果が提示された。戦略の分類の方法は様々であるが、大きく分けて、「関連分野における多角化」と「非関連分野における多角化」を峻別した分析が多い。代表的な多角化研究であるルメルトの研究は、多角化の戦略タイプを7つ(専業型、垂直型、本業・集約型、本業・拡散型、関連・集約型、関連・拡散型、非関連型)に分けるという手法を導入した(Rumelt 1974。この研究では、246の多角化企業の多角化と利益率の相関を分析しており、「中核的能力と競争力(central skill and competence)」に関連した分野に限定して、多角化を行った企業の利益率が高いという結論を導いている。

同様に、「関連分野における多角化を行った企業」が「非関連分野における多角化を行った企業」よりも高い収益性を有していることを示した研究がある(Christensen and Montgomery 1981)。

日本の企業の多角化を対象に分析を行った成果も提示されている((今井ほか 1975)(吉原ほか 1985))。吉原らは、有価証券データを用い、日本の100社以上の代表的企業をサンプルとして、前述のルメルトの手法と同様に7つのタイプに分けて分析している。その結果、企業の多角化とその成果との相関は、Rumeltの実証結果とほぼ同様であるとしている。さらに、Kodamaは、日本のハイテク産業において、川下方向の多角化が売上高成長と強い相関があり、輸出競争力が低下した産業が川上方向に多角化していることを示した(Kodama 1995)。

以上の多角化とその成果に関する研究成果をまとめると次のように総括することができる。

①多角化により収益性は向上する(もしくは相関がないとする分析結果もある)。
②関連分野における多角化が収益性を向上させる。
③非関連分野における多角化は企業の収益性を低下させる。

①の根拠は、多角化企業は一つの事業分野を収益源にして、他の事業での価格競争を有利に展開できること、また、多角化企業は高収益の分野があってもそれを公表しないことが可能であり情報面でも有利であること等がその根拠として挙げられている。さらには、多角化企業は様々な製品を製造しており、市場変化により製品の入れ替えが容易で市場変化に対応しやすいことが指摘される。しかしながら、やみくもな多角化が収益性向上に結び付くわけではないとし、多角化と収益性には、一般的な相関がないとする考え方も多く提示されている。

特に1980年代まで、多くの日本企業は、積極的に多角化を行った。確かに1980年代までの高度成長期においては、新規事業に進出することが収益性に貢献した事例が多いかもしれない。しかし、1990年代以降は、行き過ぎた多角化が収益性を低下させるのではないかという議論がなされ、本業回帰の流れが顕著であり、今や①のように単に多角化が収益を向上するとは言えないだろう。

②と③は単純な多角化ではなく、関連と非関連を峻別すべきという主張である。近年の研究成果の多くは、この立場に立っている。②の根拠は、関連分野の多角化では、いわゆるシナジー効果が期待できるという理由が挙げられる。逆に、③の非関連分野の多角化では、本業と関係がない分野ではノウハウがないこと及び製品が分散しすぎると内部管理が困難になることが理由として挙げられる。

関連多角化と技術機会

筆者の分析においても、非関連多角化と収益性との関係を分析したところ、有意に負の関係があることを実証している(玄場・児玉 1999)。1990年代においては、多くの日本企業は本業回帰と事業再構築を行った。これは、行き過ぎた多角化を修正する動きとして、やむを得ない経営判断であるとも言える。しかしながら、事業の縮小・撤退ばかりを継続していては、企業規模は小さくなる可能性が高く、一時的に収益性が回復するかもしれないが、新しい成長を望むことは困難である。

多角化を行う場合には、関連分野への多角化を行う方が収益性向上に資する可能性は高いと多くの既存研究は示している。それでは、企業にとって関連分野とは何であろうか。この点、関連分野として、本業の製品と顧客セグメントが一致している分野や販売・流通網が共通する分野なども考えられるが、製造企業にとっては、本業の製品と技術的な関連性の深い分野がもっとも重要な関連分野である。すなわち、技術的な関連性の深い分野であれば、本業で蓄積した技術を活用して、新規事業を立ち上げることが比較的容易であり、多角化による相乗効果が十分に期待できる。

企業で蓄積されてきた技術を活用する機会のある分野を技術機会のある分野と呼ぶ 。各産業とも本業で蓄積された産業技術が大きく異なるため、技術機会のある分野も、各産業とも同じではなく、産業ごとに大きく異なる。

もちろん、同じ産業に属する企業であっても、異なる技術の蓄積がある場合には、異なった技術機会を有する。しかしながら、産業全体での大まかな技術機会の方向性であっても、企業の多角化戦略の重要な指針となる。次回は、技術機会について詳しく紹介する。

 なお、技術機会と言うと、製造業のみの議論と考えられるかもしれない。この点、既存研究の分析対象の多くは確かに製造業であった。ただし、これらの議論は、非製造業においても、十分援用できる。本連載で繰り返し述べているが、イノベーションは製造業のみならず、非製造業においても創出できる。何故ならば、イノベーションに技術開発の成果が必要であったとしても、その活用の革新性こそが重要であり、この点で、非製造業も他社の技術開発の成果を活用することが可能である。そして、自社が活用している技術の機会を捉えることによる新規事業の展開も十分考えられる。また、製造業が本業以外に活用可能な技術機会を有していると同じ様に非製造業も本業のサービス以外にも活用できる様々なノウハウやブランド、顧客網などを有している可能性がある。このような蓄積した資源を活用した戦略は関連分野への多角化であり、製造業の技術機会を活用した戦略論は非製造業の多角化戦略にも十分参考にあると考えられる。


参考文献

  • Gort, M.( 1962) Diversification and Integration in American Industry, Princeton University Press.
  • Arnould, R. J. (1969) “Conglomerate growth and public policy”, Economics of Conglomerate Growth , pp72-80.
  • Rumelt, R. P. (1974) Strategy, Structure and Economic Performance, Harvard University Press,. Rumelt, R. P.( 1982) “Diversification strategy and profitability”, Strategic Management Journal, 3( 4), pp359-369.
  • 今井賢一、 後藤晃、 石黒恵(1975)『 企業 の 多様化 に 関 する 実証分析』 日本経済開発 センター。
  • 吉原英樹、 佐久間照光、 伊丹敬之、 加護野忠男(1985)『 日本企業 の 多角化戦略-経営資源 アプローチ』 日本経済新聞社。
  • 玄場公規、 児玉文雄(1999)「 産業 の 多角化 の 動向 と 収益性 との 相関」『 一橋大学 ビジネスレビュー』、 46( 3)、 pp65-74。
  • 玄場公規、 児玉文雄((1999)「 わが 国製造業 の 多角化 と 収益性 の 定量分析」『 研究技術計画』、 14( 3)、 pp179-189。

今後の参考にさせていただきます。本稿がよかったと思われる方は「いいね」を押していただければ誠に幸いです。

本連載の一覧については、連載『イノベーション戦略と新規事業創出』をご覧ください。

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