連載 第11回 コアコンピテンス経営

前回は多角化 について説明しましたが、今回はコアコンピテンス経営等について解説します。

目次

イノベーション戦略と新規事業創出(第11回) 玄場公規

技術機会を活用した多角化戦略

前回の事例は、川下方向への技術の展開を戦略的に意図した研究開発活動が多角化成功の要因と捉えることができる。すなわち、単純に川下方向への事業展開を行うのではなく、本業で蓄積した技術の展開が可能な分野を意識した研究開発活動の多角化を伴うことが必要である。核となる技術分野を定めて、研究開発活動を行い、技術の高度化を図った上で、川下方向に事業展開するのであれば、その事業展開で収益を得られる可能性が高く、また、その成果が本業の事業にシナジー効果を与えることが期待できる。

一般に各産業の研究開発活動の多角化と事業活動の多角化を比較すると、研究開発活動の多角化の方が明らかに進展していることは既に述べた。この理由としては、将来の事業の多角化、すなわち、新規事業の探索のために研究開発活動の多角化を行われている場合もあるが、本業の製品の取引費用及び技術の相互依存性によって研究開発が行われていることも大きな要因になっていると考えられる。すなわち、必ずしも、新事業展開を意図した研究開発ではないものの、異分野での研究開発が多くの企業で行われている。そして、その異分野での研究開発が行なわれている分野は、取引関係のある分野や本業の技術と相互依存関係が深い分野である。逆に言えば、これらの分野は、本業の技術との関連性が高い分野であり、「既に蓄積された研究開発成果を活用する機会がある分野」、すなわち、技術機会のある分野と捉えることができる。

ただし、注意すべきは、川下への事業展開が必ずしも成功すると言いたい訳ではない。端的には、既に蓄積した技術やノウハウなどの活用を伴わない川下への事業展開は容易ではないかもしれない。実際、1980年代後半には、素材産業を中心として、多くの産業で付加価値の高い川下方向への事業展開が行われた。しかし、その展開は必ずしも技術機会に基づいたものではなく、行き過ぎた多角化が収益性を圧迫した企業は少なくない

コアコンピテンス経営

自社で構築した技術を川下方向へ展開する研究開発活動の多角化が収益性向上に資するという結論は、一時期、盛んに議論されたコアコンピテンス(自社の中核となる能力)という概念からも捉え直すことができる。各産業において、本業で蓄積された産業技術の集合は、コアコンピテンスであり、その技術の展開を図るということはコアコンピテンスを認識した企業戦略に他ならない。

コアコンピテンス経営においては、まずは、自社のコアコンピテンスを認識することが重要であるが、コアコンピテンスに基づく事業展開には、次の4つのステップがあるとしている(Hamel &Prahalad 1994)。ステップ1では、コアとなる技術・スキルを構成し、ステップ2では、コアの技術を統合する。ステップ3では、中核となる中間製品(core product-OEM等)を製造し、ステップ4では最終製品のシェア(end product share)を最大化するのである。この点、ステップ4に注目した経営方針が立案されているが、ステップ1から3が軽視されていると主張している。

本研究の事例にみられたように、川下方向への技術の展開を認識し、コンポーネント技術に注力した研究開発を行うことは、まさに、ステップ1~ステップ3までに注力する活動であると解釈できる。シャープの液晶及びキャノンのバブルジェットヘッド等はステップ3の中核となる中間製品を製造することを意図した事例である。しかし、一方で、技術蓄積を伴わない川下方向への事業の多角化は、収益性向上をもたらさない可能性があることも注意が必要である。すなわち、ステップ1~ステップ3を軽視し、ステップ4だけを目指した事業展開は必ずしも適切ではないと考えられるのである。

この連載では、技術の機会を具体的に説明するため、定量的な分析も多角化の事例分析においても、製造企業を例にとって説明したが、コアコンピテンスによる新規事業の展開という戦略は、非製造業においても十分応用できる。繰り返しになるが、イノベーションに技術開発の成果が必要であったとしても、その活用が重要であり、非製造業は他社の技術開発の成果を活用することが可能であり、さらには自社が活用している技術の機会を捉えることによる新規事業の展開は非製造業でも可能である。また、製造業が本業以外に活用可能な技術機会を有していると同じ様に非製造業も本業のサービス以外にも活用できる様々なノウハウやブランド、顧客網などを有している可能性がある。これらは正に非製造業にとって、コアコンピテンスとなり、それを活用した新規事業展開を考えることが重要と考えられる。

自社の強みを活用した多角化戦略

新規事業とは多角化である。近年でも、国内の事業が低迷していることから、新規事業の創出を目指す企業も数多くいる。ただし、日本では非関連分野に多角化した企業が数多くあり、収益性を圧迫した企業も数多くいることも留意すべきである。しかしながら、一方で、事業の撤退・縮小ばかりでは、企業の成長は望むことができない。そこで、本連載では、多角化戦略として、技術機会を捉える必要性を提示し、産業別に技術機会が異なることを論じた。また、収益性向上に資する多角化戦略の一例として、技術機会を活用することを意図した多角化戦略を紹介した。具体的には、本業たる技術の蓄積を川下方向への展開を意図した研究開発活動の多角化戦略である。

今後の日本企業は、高度成長期のように、やみくもに数多くの分野に事業展開を行って、成長性・収益性を維持するという戦略はもはや通用しない。事業の再構築を行い、限られた資源で収益性を上げるためには、自社のコアコンピテンスを認識することが重要である。そして、製造業の各企業におけるコアコンピテンスとは、あくまでも蓄積された技術群であり、その技術から派生する技術機会を認識し、それを意図した研究開発活動と事業展開を行うことがコアコンピテンスを活かした多角化戦略であると考えられる。

このように説明すると「わが社には技術がない」、「コアコンピテンスとなるようなノウハウがない」という企業も考えられる。特に非製造業では、技術開発を行っていない企業が多いため、このように考える人も少なくないだろう。ただし、この点では、前述のようにコアコンピテンスは幅広く捉えるべきであり、人材や営業ノウハウ、顧客網、企業文化なども含めて、改めて自社の強みを考えることが重要である。 また、実は、自社の強みだけで、新規事業を起こす必要もない。近年では、他社の力を徹底的に活用してイノベーションを実現するという考え方が提唱されている。この点については、次回紹介しよう。


参考文献

Hamel, G. & Prahalad, C. K.( 1994) Competing for the future, ; Core competence, Harvard Business Press. (一條和生訳『 コア・コンピタンス 経営 : 大競争時代 を 勝 ち 抜 く 戦略』 日本経済新聞社、 一九九五年) Pavitt, K.,


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本連載の一覧については、連載『イノベーション戦略と新規事業創出』をご覧ください。

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