『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第十回 助成金活用も一案

中小企業診断士・特定社会保険労務士・行政書士 瑞慶覧 拓矢

本コラムは、中小企業診断士・社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援してきた、瑞慶覧と中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本先生と連載していきます。

コラムは今後約3か月に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。

目次

第十回 助成金活用も一案

これまでの回で、ダイバーシティ経営の進め方やその方法論などを説明してきました。第十回となる今回は、ダイバーシティ経営推進にあたって活用できる助成金について説明します。

ダイバーシティ経営導入に際しては、外部の企業研修や、推進時の制度整備にかかる専門家の支援が必要となります。人材育成に対して潤沢な予算を確保している大企業と比較すると、中小企業においては外部講師を招聘した企業研修や、専門家による支援にかかる費用もダイバーシティ経営推進に対してのハードルの一つとなっていると言わざるを得ません。

そこで、今回は中小企業が新たな制度を導入するに際して課題となる、資金獲得の方法の一つとして助成金活用について説明していきます。

助成金は、新型コロナ蔓延時に企業の雇用維持を目的として、多くの企業が雇用調整助成金を活用され、助成金の制度が広く知られることとなりました。

 助成金は主に厚生労働省が管轄をする制度であり、主に中小企業の雇用や職場環境などの人に関するの課題を解決する施策の実行に対して支給されるものと考えてよいでしょう。

ダイバーシティ経営の導入に際しては、人事制度や就労環境の整備が必要となる場合が少なくありません。

例えば、多様な人材の獲得という観点では、高齢者の活用や女性の活躍推進、外国人や障害者雇用など、様々な人材の活用が考えられます。 そのような多様な人材を雇用し成果を上げるように活躍してもらうためには、 その属性に適した労務管理を行うことはもちろん 活躍してもらうための評価制度導入などの人事制度整備が多岐にわたることが想定されます。 また、ダイバーシティ経営の導入に際しては、管理職や幹部候補などに対しての企業研修による方法も有効です。企業研修を取り巻く社会情勢として、政府はAIやDXなど先進的な産業への労働移動の推進や働く人の雇用され得る能力(エンプロイアビリティ)を高めるために、人材育成に力を入れています。そのため企業が従業員に対して研修を行うことにより助成金を支給する支援制度を拡充しています

これらの背景をふまえ、ダイバーシティ経営の導入に際し活用できる助成金を説明していきます。

前提として、助成金は申請に際して様々な要件があります。細かい条件は助成金毎に多岐に渡るため、ここではその概要の説明に留めますので申請時には助成金毎に公式のホームページをご確認ください。

まず、ダイバーシティ経営を導入に際して発生する、人事制度や就労環境の整備において活用できる可能性のある助成金を紹介します。

ダイバーシティ経営においては、まさに多様な人材の活躍が望まれますが、今注目されているのが、第四回で取り上げた女性活躍ではないでしょうか。

はじめに女性が活躍できる社会・組織を目指す上で、課題としてあげられる家事・育児と仕事の両立における現状を確認します。

令和4年版の男女共同参画白書(内閣府)が調査した「第一子出産前後の妻の継続就業率・育児休業利用状況」では、出産を機に退職した女性が30%いることが示されており、育児休業の制度自体は浸透しているものの、実際には仕事との両立が難しい状況が未だに改善されない状況も一部残っていることが分かります。また、育児と仕事との両立は今や女性だけの問題ではないことを改めて認識する必要があります。同資料の「男女別の生活時間(有償労働と無償労働)」は、有償労働(仕事等)と無償労働(日常の家事等)を男女別の比率で見たものですが、男性は無償労働が女性に比べて非常に短く、女性は男性の約5.5倍多く無償労働を多く担っており、そのしわ寄せがキャリアアップの阻害や離職につながっていることが考えられます。

一方で、働く男性の価値観にも目を向けてみます。同資料の子育てにおける夫婦の役割についての意識では、現在子育て世代である30代の男性が「家事・育児を男女の区別なく同様に行うべき」と回答した割合は、子の出生前、出生後ともに90%を超えているデータがあります。このことより、男女ともに育児・家事を行い、仕事との両立ができる制度を確立していくことが、ひいては女性の活躍に繋がる重要な施策となってきていることがわかります。

これらに対応するための制度整備を支援する制度として用意されているのが両立支援助成金です。

両立等支援助成金には主に3つのコースがあります。出生時両立支援コース、介護離職防止支援コース、育児休業等支援コースの3つです。

ここでは、育児との両立という観点で、出生時両立支援コース、育児休業等支援コースの概要を紹介します。

はじめに、出生時両立支援コースを紹介します。このコースは主に男性に対しての育休に関する助成金です。

このコースでは第1種(男性労働者の出生時育児休業取得)と第2種( 男性労働者の育児休業取得率上昇)とがあり、第2種の助成金を受けるには第1種を受給していることが条件となります。

第1種は、雇用環境整備の措置を複数行うこと。業務見直しに係る規定等を策定し、業務体制の整備をしていること。子の出生後8週間以内に開始する連続5日以上の育児休業を取得すること。が条件となっており、これらを満たすことで、20万円の支給を受けられます。

第2種は、第1種を受給していること。第1種の受給から3事業年度以内に、男性労働者の育児休業取得率(%)の数値が30 ポイント以上上昇している、または、3事業年度の中で2年連続で育児休業取得率が70%以上となったこと。育休対象男性労働者が、第1種申請の対象となる労働者の他に2人以上いること。となっています。これらを満たすことで達成度合いに応じて20~60万の支給を受けられます。

次に、育児休業等支援コースを紹介します。

このコースは、休業取得時と職場復帰時にそれぞれ30万円の支給を受けることができます。

育休取得時には、育児休業の取得、職場復帰についてプランにより支援する措置を実施する旨を労働者に周知すること。面談を実施しプランを作成すること。育児休業開始前までにプランに基づき引き継ぎを実施し育児休業を取得すること。これらの条件を満たすことで30万円の支給を受けられます。

職場復帰時には、育児休業中にプランに基づき職務や業務の情報・資料の提供をすること。面談を実施し、面談結果を記録すること。原則として原職等に復帰させ6ヶ月以上勤務させること。これらの条件を満たすことで30万円の支給を受けることができます。。

次に、企業研修を行うにあたって活用できる助成金を紹介します 企業研修を行う際に活用できる助成金は人材開発支援助成金の人材育成支援コースや事業展開等リスキリング支援コースがあります。人材開発支援助成金にはその他にも複数のコースがありますが、今回は企業研修に特に密接に関係のある2つに絞って説明します。

人材育成支援コースは、更に人材育成訓練、認定実習併用職業訓練、有期実習型訓練と細分化されますが、助成金の流れなど概要としては大きく違いはないので、まとめて説明します。

 このコースは、職務に関連した知識や技能を従業員に習得させるためにOFF-JTやOJTを行うためにかかった費用に対して助成の支給が受けられる制度です。

大きな流れとしては、従業員に受講させる研修の計画である、職業訓練計画届を作成し、認定を受けた後、その計画に基づいて、訓練を行うことで、研修にかかった費用の45%~70%

(大企業の場合は30%~70%)と、研修中の従業員の人件費となる賃金助成を1人1時間あたり760円~960円(大企業の場合は380円~480円)の合計額を最大で1社あたり1,000万円まで支給を受けることができる制度です。

事業展開等リスキリング支援コースも、大きい流れは同様ですが、対象となる研修の内容としては、新たな分野で必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練や企業内のデジタル・デジタルトランスフォーメーション(DX)化やグリーン・カーボンニュートラル化を進める場合にこれに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練が対象となります。

支給を受けられる額は、研修にかかった費用の75%(大企業の場合は60%)と、研修中の従業員の人件費となる賃金助成を1人1時間あたり960円(大企業の場合は480円)の合計額を最大で1社あたり1億円まで支給を受けることができる制度です。

具体的にどのような研修が対象になるかは、個別具体的な内容をみて労働局が審査を行うものとされているため、詳しくは労働局に確認してみることをお勧めします。

最後に本コラムで紹介した助成金は、それぞれに細かい要件があります。本コラムでは概要の説明に留めておりますので、申請に際しては厚生労働省等、各助成金の公式ホームページでご確認ください。また、厚生労働省のホームページでは、高年齢者雇用や障がい者雇用、副業人材の受け入れ、多様な従業員の確保に向けた制度整備を行った場合に支給をうけることのできる助成金など、ダイバーシティ経営と親和性の高い様々な制度整備に対して助成金での支援が紹介されています。

ダイバーシティ経営の推進に際して、制度整備を行う場合には一度確認してみることをお勧めします。

本コラムでは、ダイバーシティ経営に取組む大切さへの気づきや、進めていく上で必要となる様々なファクターを2人の目線で取り上げていきます。

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