『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第二十一回 ダイバーシティ経営のまとめと今後の展望

中小企業診断士・特定社会保険労務士
瑞慶覧 拓矢

中小企業診断士・特定社会保険労務士・行政書士
COO 瑞慶覧 拓矢

本コラムは、中小企業診断士・社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援してきた瑞慶覧と、中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本の2人で連載してきました。今回の第二十一回が最終回となります。

目次

第二十一回 ダイバーシティ経営のまとめと今後の展望

本コラムは、中小企業診断士・社会保険労務士として中小企業の人事戦略を支援してきた瑞慶覧と、中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本先生と連載してきました。

2023年6月から約4か月、20回に渡り、コラムにて配信してきました。

第1回から第11回までの前半では、主にダイバーシティ経営の必要性からはじまり、進めるにあたって発生しうる課題や、その解決の方向性など、ダイバーシティ経営における概論を示してきました。

第12回以降、第20回までの後半については、中小企業、ファミリービジネスにおいて喫緊の経営課題であり、ダイバーシティ経営の「多様性の確保」という観点とも共通する、人材確保という切り口から、ダイバーシティ経営において主な焦点となる各属性についいて、その採用・確保から定着、活躍までの手法やその方向性を示してきました。

これまでの回でも何度か書いてきましたが、ダイバーシティ経営は一朝一夕で成し遂げられるものではなく、また、ダイバーシティ経営が実現された。という明確な組織状態や定義があるわけではなく、あくまでも自社の経営課題の解決や達成したいあるべき姿を達成するための施策のひとつにすぎません。

さらにいうと、ダイバーシティ経営が経営戦略と連動し、施策としてのダイバーシティ経営推進にあたっての、施策立案、実行、改善、再度実行というプロセスを踏むこと自体が重要なのであり、単に組織の多様性が拡張されたことのみを以て、ダイバーシティ経営が実現されたと認識することは目的とゴールを混同していると言わざるを得ません。

最終回となる本稿では、これまで示してきたダイバーシティ経営推進における施策や方向性をおさらいし、現在の企業経営をとりまく社会情勢などの外部環境を踏まえたうえで、イノベーションを加速させるダイバーシティ経営活用の方向性を示していきます。

まず、コラムの前半部分では、ダイバーシティ経営の必要性から始まり、ダイバーシティ経営の導入に際してのマインドセットとして、経営陣のマインドチェンジが必要であることが大前提であることを説明しました。ダイバーシティ経営導入や推進の意味目的を充分に理解、腹落ちしていなければ組織内の抵抗勢力により、たちまちダイバーシティ経営の導入はプロジェクトごと立ち消えることになる可能性があるということです。

また、実際にダイバーシティ経営を推進するにあたっては、今ではダイバーシティと必ずセットで使われるようになった「インクルージョンinclusion」という観点も重要性が高まっており、ダイバーシティ経営においては「インクルーシブな文化の浸透」が組織に重要であることを説明しました。さらに昨今では、ダイバーシティ経営をさらに事業の成果に結びつけるために、一人一人、立場が違う人への共感力や理解力を重要視し、組織の公平・公正性を高める「エクイティ(Equity)」や心理的安全性を確保した居場所を作る「ビロンギング(Belonging)」といった考えも併せて考える必要性が出てきています。

次にこれらダイバーシティ経営を進めるにあたって、社内のリソースが足りない場合は外部コンサルタントや企業研修機関活用の有効性を説明するとともに、企業研修の内容や、就労環境の整備をする項目によって、条件を満たせば国の助成金を活用できる場合があることを説明しました。

 コラム後半の部分では、女性、障がい者、外国人、高齢者、若者とダイバーシティ経営において多様性の観点で取り上げられることの多い属性ごとに採用と活躍、それぞれのポイントを示してきました。

 しかし、昨今では非常に価値観が多様化しており、これまでの回で示した施策や方向性は完全にすべての組織やケースに対して有効な施策や観点、方向性ではありません。

ニュースを見渡してみただけでも、LGBT法や女性活躍推進法、障碍者雇用促進法の改正など属性自体も多様化していることや、人生100年時代、リスキリングなどといった個人の生き方に対して新たな観点をもたらすものなど、多くの価値観を生み出し、それを許容する社会となってきていると感じます。

また近年で、人々に大きな価値観の変化を与えたものとしては、新型コロナウィルスの蔓延ではないでしょうか。

新型コロナウィルス蔓延により、生活様式の変化のみならず、働き方に対する価値観は変化、多様化し、働き方改革やワークライフバランスという言葉と共に、一人一人の家庭や背景、さらには仕事に対する価値観、働き方の価値観など、これまで事業成長の二の次とされ、後回しとされてきた、働く人それぞれにスポットが当たり始めました。各個人の価値観の多様化を許容・包摂し、組織の力に変えていこうという動きが急速に強まってきました。

既に多様化した価値観を、コロナ禍以前と同じインセンティブにより、同質化させ、組織の目標に向かわせることは非常に難しくなっています。ダイバーシティ経営は中小企業、ファミリービジネスがイノベーションを起こし、事業を成長させていくには必ず必要な手法のひとつであると同時に、ダイバーシティ(多様性)、インクルージョン(包摂性)、エクイティ(公平性)、ビロンギング(帰属意識)を組織風土に“醸成させる”という正解のない非常に難解な取り組みです。だからこそ、経営者が実行する意味目的を理解することが大事ですし、企画、実行、改善といった実行プロセスを重要視します。この点を理解し、愚直に進めることでダイバーシティ経営推進にあたって、これまで直面したことのない課題に対しても新たな解決策や方向性が見えてくるでしょう。

貴社の経営課題の解決において、本コラムが一助となれば幸いです。

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