『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第八回 企業研修の有効性

合同会社Manest 代表社員

中小企業診断士・特定社会保険労務士・行政書士 瑞慶覧 拓矢

本コラムは、中小企業診断士・社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援してきた、瑞慶覧と中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本先生と連載していきます。

コラムは今後約3か月に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。

目次

第八回 企業研修の有効性

これまでのコラムで、ダイバーシティ経営の有効性や進め方を説明してきました。

第8回目となる本コラムでは、ダイバーシティ経営導入の一つの方法論となる、企業研修の有効性について書いていきます。

企業研修は人材育成の手法の一つと考えられています。

最近の動向としては、政府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2022」において人への投資を拡大し、人的資本の蓄積をしていくという方向性が示されたことや、新型コロナ蔓延による、オンライン化などの急速な進展もあり、企業研修の形態も進化しています。形式としては、これまで主流であった対面式の集合研修に加え、オンライン形式の研修も一般化し、リアルとオンラインで行うハイフレックス形式などの柔軟な形態をとる教育機関も急速に増加しました。また、オンラインでもリアルタイムによるライブ配信だけでなく、研修日当日に見逃した場合や復習にも活用できるアーカイブ配信や、月額定額で動画配信が見放題のサブスクリプションサービスなど、研修会社や教育機関は顧客の需要の高まりに対応するために多様なサービスを提供しています。

このように外部環境の変化に合わせて、柔軟に形を変えてきた企業研修は、実際にも企業にとって効果があるという裏付けもあります。平成29年8月31日に独立行政法人労働政策研究研修機構が行った「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」では、OFF-JTを実施した企業の9割近くが「効果があった」と回答しており、企業において重要な経営課題である人材育成の一手法として企業研修が確立されているとも言えるでしょう。

一方で、企業における人材育成の現状と課題[佐藤 厚 2012]では、従業員側の観点から、企業研修がうまくいってないと回答する従業員の数の方がうまくいっていると回答する従業員よりも多いとの指摘もあり、企業研修を行うにも、会社のひとりよがりにならない研修設計が必要であると言えます。

では、企業の観点だけではなく、従業員の観点、双方にとって効果のある企業研修とはどのように行えば良いのでしょうか。

企業研修は一般的に、自社人材の育成を目的として行われます。さらに、人材育成は新たな事業を創出するにあたって不足している知識や技能を習得するものや、現場のスキルを底上げし人材不足に対応するため、コンプライアンス研修などの企業が有するリスク低減させるなど、知識を習得し、ワークケースを検討するなどの方法等により、様々な目的を達成するために行われることが考えられます。

しかし、企業・従業員双方にとって有効な企業研修とするには、そこから一歩踏み込む必要があります。前提として、企業研修は会社が直面している課題を解決するための解決策でないといけません。

もし企業研修を行うことで解決することのできる自社の課題がわからないということであれば、第六回の「経営者・経営幹部の意識改革」でも説明した内容とも重複しますが、「なぜ企業研修を行うのか?」を明確にし、研修を企画する人事部門や経営層自体がその目的を自ら理解する必要があります。

漠然と研修を企画・外注し、上司から部下へ「研修があるから行ってきて」では、研修に参加する方も研修中は「上司に言われたから」と受け身になってしまい、話を聞き流し、ただ時間の浪費となり、全く効果がありません。

そのようにならないために、まずは研修の企画者である人事部門や経営者が研修を行う意味目的を明確にすることから始める必要があります。

前述したように、会社が直面している課題を解決するのが企業研修である必要があります。そのため、現在の自社の課題を具体的に洗い出し、それを企業研修の実施で解決できるかを考えていきます。

  1. 自社の経営戦略の実行においてどのような課題が存在するのか。
  2. その課題は人材の確保によって解決できるのか
  3. 配置換えや採用などの他の人材確保手段で代替できるのか

これらを検討した結果、企業研修を実施することで社員の能力向上による課題解決が明確になった場合にのみ、能力向上に資する企業研修を実行します。

前述の独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した調査では、仕事上の能力を高めるためにどのような課題があるかを正社員に尋ねた質問に対して以下のような回答がありました。「忙しすぎて教育訓練に時間が取れない」(27.1%)、”従業員の間において能力を伸ばすための切磋琢磨の雰囲気が乏しい」(22.4%)、”会社が従業員に必要な能力を理解していない」(20.7%)という回答がありました。これらの結果は、企業研修の有効性に関して経営者自身が理解していないか、従業員に対して企業研修の有益性が浸透していないという理由によるものであると考えられます。

これらの理由についても、前述の自社の課題の洗い出しにより、問題点が明確になる効果が見込まれるでしょう。

また、効果的な企業研修を実現するためには、会社側の準備だけでなく、受講者自身の準備と心構えも極めて重要です。具体的で細かい説明を行うことが効果を最大化するために必要です。例えば、自社は現在どういった戦略に向かっていて、その戦略に向かっていくためにどのようなことが必要か、そのためにどのようなスキルを持った人材が必要か。目指す姿と、今回の企業研修との位置づけを説明するなど、自社の戦略と企業研修の紐付けを行うことが考えられます。さらには、企業研修を受けることでどの様な成果を出して欲しいのか。そのためにどの様な行動を起こして欲しいのか、そのためにはどの様な知識または気づきが必要か。なるべく詳細にまで伝えることで企業研修の効果が高まる可能性があがるでしょう。

最後に、効果の高い企業研修とは、知識の習得や気づきを促すだけでなく、受講者の行動変容を引き起こします。企業研修を通じて、事業遂行上の成果にどのようにアプローチするのか、そして受講者にどのような行動を求めるのか。これを事前に研修の企画担当や上司から伝えることが考えられますが、さらに効果を高めるためには、経営者や経営陣を巻き込んで全社的に企業研修への積極的な風土を醸成することが重要です。これにより、企業研修受講者のモチベーションを高め、より高い効果が期待できます。

このコラムでは、効果的な企業研修に向けた準備や心構えについて取り上げました。ダイバーシティ経営に取り組む上での重要性や必要なファクターについて、2人の目線から具体的に説明していきます。

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