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第2回事業承継セミナー報告書 前編

第2回事業継承セミナー報告書

2018年9月13日19時より、第2回事業承継セミナーを法政大学学院において開催した。先月(8月28日)開催の第1回に続き、2回となる今回の講演では、以下に紹介する3代目後継者と司法書士のお二人にご登壇いただいた。

経営理念で100年企業を目指す!!  3代目社長の経営に活かす人材育成術

株式会社中北電気 専務取締役 佐藤孝文

佐藤家には家訓がある。
「後継者になる者には、金で苦労させること」
そして、会社を承継する者だけがこれに従うことを求められる…。

 株式会社中北電機は、佐藤常務の祖父が立ち上げた。会社を設立する前から数えると、創業70年近い電材専門商社である。元々は東北地方に特化して事業展開していた。祖父の時代から良質の顧客を押さえ商流の川上に君臨し、潤沢なキャッシュフローで安定経営を続けてきた。
昨今国内需要が伸び悩む一方、海外でのインフラ投資需要が拡大する中、アジアを中心に海外展開にも精力的に取り組んでいる。

後継者教育時代(学生偏)

佐藤常務は、子供のころからそんな安定企業の後継者候補として家訓に従った生活を送ることが求められた。中学生のころ、周りの友達が月額平均2000円の小遣いを受け取る中、自身だけはわずか500円をやり繰りした。「友達と同じペースでジュースも買えなかったし、ファミコンソフトを買うにもかなり小遣いをためる必要があった…」と当時を振り返る。
この小遣い格差は、身内の中でも起こっていた。進学で上京した後も、毎年盆と正月には帰省することを半ば義務付けられていた。あるとき、金欠を理由に帰省しないと祖父に伝えると、それくらいは何とか工面して帰省するようにとはねつけられた。帰省した佐藤常務を更なる衝撃が襲う。妹や従兄弟5人は、年2回の帰省の度に交通費だけでなく、潤沢な小遣いまで祖父からもらっていたのだ。祖父に抗議すると、「(会社を継げば)他人にお金を与える立場になるのだから、帰省代ぐらい自分で稼げ」と一蹴された。

後継者教育時代(社会人偏)

大学卒業後、別の後継者家訓「後継者になる者には、最低3年就職すること」に従い商社兼樹脂メーカに就職し、その後家業である中北電機へ入社する。しかし、入社当初は役職も給料も同世代レベル。その上、将来の後継者という立場上、若手社員を飲みに連れて行かなければならず、金欠の悩みは尽きなかった。あるときなど、母に買ってもらったオーダーメイドの高級スーツ5着(=80万円相当)を売り払い、社員との飲み代の軍資金にした。
「今思えば、あれは全て経営者になるための帝王学だったのでは…」と当時を振り返る佐藤常務。
お金には厳しい家庭環境であったが、必要な教育については潤沢な資金の提供を受けた。英語や中国語といった語学教育を受け、合気道や剣道などの武道を習った。「語学は自社の海外展開を進める上で、武道は経営者に必要な度胸や落ち着きを養うのに現在役立っている」と、佐藤常務は語る。

社内改革時代(三大改革偏)

佐藤常務が入社した当時、中北電機には閉鎖的で(リスクを好まない)安定重視の、コンサバティブな風土があった。すでに国内数か所に拠点を構えるまでになっていたが、社員たちは極度に地元志向が強く転勤を拒む傾向にあった。また、会社もそんな “社員たちの意向”を大切にしていた。一方で、社内の文化になじめず辞めていく者もいた。実際に電気工事を行う電設部では技術力のある古参社員に気を遣い、一方で若手社員は仕事を教えてもらえずにくすぶっていた。両者の間には明らかに壁があった。その他、人材が育つ環境の乏しさに将来の不安を感じた佐藤常務は、3つの中期改革計画を打ち出す。

一つ目は、“再生可能エネルギー部門の立ち上げ”である。自社が遅れをとっているイノベーティブな要素の大きな事業であったが、あえてこれを選んだ。当初は、安定電源として効率のよい原発を推進していた現経営陣からの軋轢も大きかったが、現在自社の大きな柱へと成長した同部門に否定的な者はいない。若手社員も、環境にやさしい再生エネルギー開発に携われることに誇りを感じ、やる気にもつながっている。

二つ目は“工事部門の再生”である。古参社員と折り合いが合わずに若手が辞めても、古参を守ることに注力する社風を変えたかった。両社が協力し合えば、技術の承継もうまくいく。現経営陣が古参社員の立場を尊重するなら、と佐藤常務自身は若手側の立場からも社内環境に気を配るよう心掛けてきた。

三つ目は“電材店の海外展開”である。数年前から既に、日系ゼネコン・サブコン向けに日本製の電設資機材を輸出している。自社の取扱う製品は、建設業界が主な得意先層となる。そのため、建設業界動向に少なからず影響をうける。現在、業界規模は“長期的には緩やかな減少”傾向を辿っており、中北電機では売上維持のために需要拡大に期待できる東南アジア市場に目を付けている。昨年度修了した大学院でも、海外展開をテーマに論文を書いた。
東北で前例のない同事業は、佐藤常務がイニシアチブをとって進めやすく、本人も「イノベーティブな改革をもたらす」と意気込む。

社内改革時代(人材育成偏)

前述の通り以前は排他的な組織であった会社に、人材活用の側面からも改革を行っている。従来、地元の高卒者を採用し続きてきたが、大卒採用の必要性を感じ実行した。その後、社風に合わずすぐに退職してしまう大卒者を見て、大卒の中でも体育会系を中心の採用に路線を変えた。これが見事あたった。元々体育会系の社風があった中北電機に就職した大卒新人は、しばらくすると既存社員たちと打ち解けるようになった。一度会社になじんでしまえば心強い。更に、大卒者は比較的転勤に抵抗感がなく、祖父の時代から望まれていた配置転換も容易に進むようになった。
先代の父は、経営者一族のみで担当していた上得意客を部下に任せずに電力営業事業で苦労していた。それを身近で見ていた佐藤常務は、部分的ではあるが数年前からこうした顧客層を大卒の社員に任せるようにしてきた。すると、そこから今までにない成長を見せる者がでてきた。部下に仕事を任せその成長を見守る中、自身の経営陣・上司としての役割は、社員がミスをしたとき、代わりに取引先に謝ることだ、と佐藤常務。
こうして、自身が事業承継する準備段階から将来の“右腕”社員を発掘・育成していく。“右腕”を発掘する上で、もう一つ大切なことがある。最初ウマが合わないと思った社員とも、嫌ったり上から命令したりするのではなく、コミュニケーションを通して徐々に腹を割って話せる関係を築くことだ。最初は反抗的だった社員ほど、信頼関係ができた後は力強い味方となり、人が嫌がるような職務を進んでこなしてくれるようになるからだ。そして彼らも、大切な“右腕”候補となる。時間をかけて従業員とこのような信頼関係づくりをすることは、事業承継において重要な要素である。

佐藤孝文

 

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