中小企業診断士・特定社会保険労務士・行政書士 瑞慶覧 拓矢
本コラムは、中小企業診断士・社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援してきた、瑞慶覧と中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本先生と連載していきます。
コラムは今後約3か月に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。
第十二回 ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営
これまでの回で、ダイバーシティ推進においての課題や施策を書いてきました。
今回のコラムでは、ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営の位置づけとその関連性を改めて整理し、ダイバーシティ経営施策の一つである多様な人材の確保における方向性を示していきます。
まず、改めてダイバーシティ経営の定義を確認します。
経済産業省のホームページでは、ダイバーシティ経営の定義を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。
この定義を分解してみると、一つに「多様な人材を活かすこと」、二つに「その能力が最大限発揮できる機会を提供する」という二つの実行軸が浮かび上がってきます。
これら二つの軸を両輪として進めていくことがイノベーションを創出し、価値創造につなげている経営。そのことがダイバーシティ経営と定義されている訳ですが、ファミリービジネスを営む中小企業においては、そもそも人材確保を経営課題としてあげている企業が少なくありません。
さらに、日本において90%以上の比率を占めるファミリービジネスの特徴として、経営陣の交代がほとんどないことから、保守的な経営になりやすく組織が同質化し、イノベーションの実現が阻まれている可能性が指摘されています。
このように、人材に起因する経営課題は、ファミリービジネスを営む中小企業が解決すべき喫緊の経営課題であると考えられます。
そこで、ダイバーシティ経営の実現のために、採用の切り口を見直すという人材確保全体的な観点を本コラムで説明し、次回以降の回では若年者、女性、高齢者、障がい者など、ダイバーシティ経営における多様な人材と定義されることの多い人材を各属性毎の人材確保・各人材の適応・定着について説明していきます。
第二回のコラムで、従来の採用手法では特定の資格や経験を持つ人材を求める傾向がありましたが、ダイバーシティ経営ではこれに限定せず、異なるバックグラウンドや経験を持つ多様な人材を採用・活用します。これにより、人出不足が深刻な企業でも、多様な人材プールから適切な人材を見つけることができると説明しました。
中小企業における人材確保の観点では、ただ闇雲に異なるバックグラウンドや経験を持つ多様な人材を採用・活用しても、業務の運営に支障を来す可能性もあり、ダイバーシティ経営導入のその先である、従業員の「帰属意識」を高めることが難しいです。
そのため、経営資源が限られている中小企業においては人材確保の入り口である採用においては、採用要件の見直し、すなわちそのポジションの採用を行う目的や実際に採用後にやってもらいたい具体的業務内容を一度見つめ直すことをお勧めします。
バックグラウンドを含めた採用要件や人物像を再検討することで、人材プールの幅が拡張し、人材不足の課題解決に寄与することが考えられます。
以下に、採用要件を再検討する切り口の例を示します。
1.体制を維持するためのものか、強化するためのものか
求人をかける募集の背景には、離職等による欠員に対して人員補充が必要な場合で、体制の維持を図るものと、新規事業の拡大など体制の強化にあたって人材拡充が必要な場合が考えられます。就いてもらう業務のスキルや知識を明確化するためどちらの場合であるか考えてみます。
2.専門知識を保有し、またはマネジメントを行う「中核人材」か業務運営を行う「労働人材」か
この言葉の定義は、2017年版「中小企業白書」から引用した言葉になります。
「中核人材」とは
・各部門の中枢として、高度な業務・難易度の高い業務を担う人材。
・組織の管理・運営の責任者となっている人材。
・複数の人員を指揮・管理する人材。
・高い専門性や技能レベル、習熟度を有している人材
「労働人材」とは
・各部門において、比較的定型的な業務を担う人材。
・組織の管理・運営の責任者となっていない人材。
・中核人材の指揮・管理のもと、各業務を行う人材。
・中核人材の補助的な業務を行う人材。
・その他、高い専門性や技能レベル、習熟度を有していない人材。
3.IT活用や業務改善などで代替できるものか
人手不足を感じている場合、 人を採用すれば解決すると考えがちですが、それ以外の解決策を検討することも重要です。離職に伴う人員補充である場合、おなじスキル・知識を有する人材が一番手っ取り早いと考えがちですが、業務の外注化やITの活用による場合も考えられます。その場合、業務の外注化の経験がある人材やITスキルを持った人材など、人材に求められる要件が異なってきます。
4.対象となる業務はどのようなスキルや知識が必要か
1~3をもとに、再定義された人材要件について、募集ポジションにおいてどのようなスキルや知識が必要かを再検討します。
5.対象となる業務はどのような人物像(属性)である必要があるか
4をふまえ募集ポジションにおいて、スキルや知識以外に必ず必要となる人物像や属性があるのか。高年齢者、女性、障がい者、若年者などを無意識的に除外していないかを考えてみる。
6.多様な属性の人材活用が可能であるか
5をふまえ多様な属性の人材活用が可能であるかを検討してみます。
以上に、人材確保全体的な観点を説明しました。次回以降の回では冒頭で述べたとおり、若年者、女性、高齢者、障がい者など、ダイバーシティ経営における多様な人材と定義されることの多い人材を各属性毎の人材確保・各人材の適応・定着について説明していきます。
本コラムでは、ダイバーシティ経営に取組む大切さへの気づきや、進めていく上で必要となる様々なファクターを2人の目線で取り上げていきます。