『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第十三回 女性の採用と女性活躍について 前編

法政大学IM総研ファミリービジネス研究部会 特任研究員
中小企業診断士
ダイバーシティイノベーション株式会社
 CEO 榎本典嗣

本コラムは、中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本と同じく中小企業診断士でもあり、社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援されてこられた瑞慶覧先生と連載していきます。

コラムは6月より約半年に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。

第十三回 女性の採用と女性活躍について 前編

ダイバーシティとは「多様性」を意味する通り、ダイバーシティを意識した採用を検討する際には、女性、高齢者、障がい者、外国人など、それぞれのカテゴリーにおいて対策を検討しなくてはなりません。

近年では、女性活躍という言葉が頻繁に使われように、上記カテゴリーの中でも女性を意識した採用に力を入れる企業が多くなってきています。そこで第13回、14回コラムでは、女性の採用と定着に関して取り上げてまいります。

女性採用数を意識する背景

女性採用を積極的に行う流れは、今後も拡大する傾向にあると考えます。理由は幾つか挙げられますが。特に2016年4月に施行された「女性活躍推進法」が大きく影響を与えています。

「女性活躍推進法」とは、働きたいと望む女性が個性・能力を十分に発揮できる社会の実現を目指して制定された法律となります。正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」です。

同法が制定された背景には、将来的な労働力不足を解決するには、女性の活躍が不可欠であり、その中で働きたくても働けない女性がいる状態や、管理職の女性割合が少ない実態を解消することにあります。

女性活躍推進法では、国や地方公共団体、一般事業主(常時101人以上の労働者を雇用する事業主)に対して以下の取り組みが義務づけられました。

  1. 自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
  2. その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表
  3. 自社の女性活躍に関する情報の公表

こうした流れもあり、女性活躍推進法が起点となって企業における女性の採用の意欲は高まっていることがまず挙げられます。

また、もう一つ考えられることは、実際に女性の活躍を目の当たりにし、企業としても女性の採用や登用を無視することができなくなった世の中の変化が挙げられます。変化の一つとしてライフスタイルの変化があります。今や世の中の消費の中心は女性です。女性は世帯消費の8割を決め、9割に口を出しているという調査結果が出ています。多くの女性の購買行動には「私」だけでなく「誰かのために」商品を購買し、「誰かを想い」クチコミをすることで、情報の渦を拡大していくという女性特有の動きがあると言われています。

消費の中心である女性の目線や動きを捉えるには、当然のことながら女性の価値観や視点を考慮しないわけにはいきません。ライフスタイルの変化においても、女性を含む多様性のある採用活動に大きく影響を及ぼすことになります。

このように法律だけでなく、実際の消費文化などの背景からも、男女どちらかの性別に偏った採用は見直される傾向にあり、近年では特に女性の採用数を意識した活動が行われるようになったのです。

女性が望む働きたい企業の特徴

ここまで女性採用数を意識する背景に関して見てきたわけですが、前述したように企業側が採用したいという意思を持っていても、簡単に採用できるわけではありません。特に今後、生産年齢人口が減少する中で、待っているだけでは人材の確保は叶わないことは火を見るよりも明らかです。

では、女性にとって働きやすい環境とはどのような環境を指すのでしょうか。女性採用に力を入れている企業の特徴をいくつか確認していきます。

  • 育休・産休制度が充実している
  • 女性社員の比率が高い
  • 女性の管理職が多い
  • 有休消化率が高い
  • 残業時間が少ない
  • 時間や場所問わず柔軟な働き方ができる
  • 国の認定マークを取得している

まず挙げられるのは、「育休・産休制度」をはじめとする制度の整備です。入社した後も長く働いてもらうためには、少なくとも「育休・産休制度」は必須の制度となります。また最近ではワークライフバランスを重視する人が多くなってきており、柔軟な働き方を可能にする「時短勤務」、「リモート勤務」、「フレックス」といった勤務制度も重視される指標とんっています。なお、男性の育休制度は、男性の育児時間を増やすことで女性の時間確保を手助けする制度と言えます。

子供の年齢に合わせた働き方を提供できる制度設計も大切です。少子高齢化と言われる社会において、子供を増やすことは社会の命題です。今後ますます企業に求められる制度の一つとなることは間違いありません。

なお、時短勤務も保育園時代だけでなく、習い事に行ける小学校高学年くらいまで時短制度が使えることが望ましいかもしれません。日本マクドナルド株式会社では、復帰後も子どもが小学校を卒業するまでの期間は、勤務時間を最大3時間短縮できる育児短時間勤務制度もあり、育児と両立しながら働き続けることが可能な制度を作っています。

こうした制度を充実させることで「えるぼし認定」や「くるみん認定」といった国の認定マークの取得することも、就職先を決める際の一つの指標となります。「えるぼし認定」とは「女性活躍推進法」に基づき、一定基準を満たし、女性の活躍促進に関する状況などが優良な企業を認定する制度であり、「くるみん認定」は子育てサポート企業として、厚生労働大臣の認定を受ける制度のことを言います。

ダイヤモンド社による、「2022年版女性が働きやすい会社ランキング」3位のイオン株式会社では、「なでしこ銘柄2021」「日経Smart Work大賞2020イノベーション力部門」「えるぼし3段階目」など複数の認定や賞を受けています。

また、女性比率に高い企業や、女性管理職が多いという要素も大切です。女性活躍を推進するには、まずは身近にお手本となるロールモデルや、同性としての相談者がいる環境が望まれます。特に、管理職になりたいと思う割合が少ない日本の女性において、ロールモデルの存在は自分のキャリアプランの道標となり、就職意欲に大きな影響を与えることになります。

女性の採用を積極的に行うにあたり、皆様の企業はどこまで対応できているでしょうか。女性の採用を積極的に行うことは、今の日本において最早必須の事項といっても過言ではありません。労働力の確保という面だけでなく、イノベーションを創出するという面においても、女性を意識した採用で多様性を確保することは、企業が今後生き残る上で大切なこととなります。

次回第14回コラムでは、採用した後に女性が活躍できるためのポイントや、事例についてご紹介します。

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