『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第二回 深刻な人手不足

合同会社Manest 代表社員

中小企業診断士・特定社会保険労務士・行政書士 瑞慶覧 拓矢

本コラムは、中小企業診断士・社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援してきた、瑞慶覧と中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本先生と連載していきます。

コラムは今後約3か月に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。

目次

第二回 深刻な人手不足

2022年の合計特殊出生率は過去最低となり、日本の少子化は想定を超えるスピードで進み、その影響により日本の労働人口は減少の一途を辿っています。

それに対し、政府は働き方をはじめとする社会全体の仕組みを変えようと様々な施策を検討していますが、効果は鈍いようです。

昨今テレビのニュースを賑わせる、これら社会におけるマクロ的な要因は、企業において人出不足として表出しています。人手不足感を判断する一つの指標である失業率を確認してみると、2002年の時点では5.4%であった失業率は減少を続け人手不足感を強めてきました。2009年のリーマンショックに端を発した世界規模での景気悪化により瞬間的に人手不足感は解消したものの、すぐさま減少に転じ下降を続け、足下2020年の失業率は2.6%となっており現在の人手不足状態に至ります。(下図参照)

(出典:総務省「労働力調査」2022)

また、最近では従業員や経営幹部などの退職・離職が直接・関節的に起因した倒産理由である、「人出不足倒産」というワードが統計データで使われるようになってきたことや、2016年の通商白書では「イノベーションを通じた経済成長には経営戦略と並んでイノベーションを担う人材の確保が重要である」との記述があるように、企業経営において人材の重要性が高まっています。  

過去に私が関与した会社でも、新規事業への展開を行うためにマネジメント人材を雇ったものの、適切な人事制度の整備、既存業務の整理がなされていないかったことが理由で、新事業展開のために入社した社員の8割が退職し、企業として新事業展開が遅延したケースが発生しました。私はこのケースを目の当たりにしたとき、人材の採用を含めた制度整備など、人材確保を適切に行わなければ、企業はイノベーションを起こすことも難しいと言わざるを得ない状況であると感じました。このように人材確保は企業において喫緊の課題となっています。

 

これまで述べたように、昨今の人材確保における中小企業の労働市場での立場は極めて厳しい状況にあり、人材確保という経営に極めて影響度の高い課題に向き合い、これまでとは違った観点・価値観の施策、戦略を検討し実行を推し進めるフェーズに来ています。

これらの課題解決に有効なアプローチがダイバーシティ経営です。 ダイバーシティ経営は、異なるバックグラウンドや経験を持つ多様な人材を積極的に採用・活用する経営手法です。

従来の採用手法では特定の資格や経験を持つ人材を求める傾向がありましたが、ダイバーシティ経営ではこれに限定せず、異なるバックグラウンドや経験を持つ多様な人材を採用・活用します。これにより、人出不足が深刻な企業でも、多様な人材プールから適切な人材を見つけることができ、人材確保の課題解決に貢献することが考えられます。

このように見みると、ダイバーシティ経営は特定の資格や経験、高いスキルをもった人材採用でさえ苦戦している中小企業で推進することは難しく、ダイバーシティ経営は大企業が取り組む内容であると感じたかもしれません。しかし、昨今は中小企業でもダイバーシティ経営を取り入れる潮流が見られ、多くの企業がすでに取り組んでいます。実際、2018年の中小企業白書では、中小企業の労働人材不足への対応方法として、46%の企業が多様な人材の活用をあげており、中小企業においても多様な人材活用によりダイバーシティ経営を推進するための機運が高まっているといえ、逆の表現をすると中小企業もダイバーシティ経営をとりいれていかなければ、人材不足に一層拍車をかける状況に陥る可能性があります。

最後に人事の観点から概観してみます。ダイバーシティ経営は雇用の多様性を推進する取り組みであるため、推進するに際して採用・評価・教育・労務管理・コンプライアンスなどの人事制度の整備が必要となります。それにより、結果として差別や偏見の防止、労働環境の改善にも寄与する効果が見込まれ、雇用を取り巻く法令に起因する法的なリスクを軽減させることや、従業員の満足度やモチベーションの向上を促進することにつながります。また、組織風土においても意識改革やリーダーシップの強化、意思決定の透明性向上など、多様な人材誰もがその組織で活躍することが認められるような組織風土を醸成させる効果が見込まれます。

以上のように、人材不足に対する有効な解決施策としてのダイバーシティ経営を取り入れる中小企業の数は、労働人口の減少と反比例して増加していくことが予想されます。

一方で、ダイバーシティ経営に着手したものの、企業内部の軋轢や現行の制度など、様々な要因により壁に阻まれ、止まってしまったという企業も多いのではないでしょうか。

本コラムでは、ダイバーシティ経営が企業に与える影響を様々な観点からお伝えするだけでなく、ダイバーシティ経営の進め方や進めるにあたり発生しうる壁など実際に進めるに際してのアクションも以降のコラムで併せてお伝えしていく予定です。

第二回は、「深刻な人手不足」というテーマについて書いてきました。ダイバーシティ経営を推進していくことは国や企業、誰もが必要性を感じています。しかしながら、特に日本においては進められていないのが現状です。その中でも、人材不足・後継者不足といった多くの問題点を抱える、中小企業を中心としたファミリービジネスこそが、率先して取り組むべき課題であると考えます。

本コラムでは、ダイバーシティ経営に取組む大切さへの気づきや、進めていく上で必要となる様々なファクターを2人の目線で取り上げていきます。

2023年8月23日(水)にファミリービジネス研究部会のセミナーを開催します。ダイバーシティ経営に関しても取り上げる予定となっております。詳細が決まりましたら告知しますので、ご興味のある方は是非ご参加お願い申し上げます。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次