『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第三回 ダイバーシティ経営と企業業績の関係性

法政大学IM総研ファミリービジネス研究部会 特任研究員
ウィズコンサルティングラボ
中小企業診断士 榎本典嗣

本コラムは、中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本と同じく中小企業診断士でもあり、社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援されてこられた瑞慶覧先生と連載していきます。

コラムは今後約3か月に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。

目次

第三回 ダイバーシティ経営と企業業績の関係性

第三回コラムでは、ダイバーシティ経営と企業業績の関係性に関して確認していきます。

第一回コラムでも少し触れましたが、既に多くの論文や研究機関において、ダイバーシティ経営と企業業績との関連性ついて触れています。これらの論文やレポートの多くは、ダイバーシティ経営を実践することで、企業業績が向上すると記載されているものが多くみられ、一見するとダイバーシティ経営と企業業績の関係性の間には正の相関があるように捉えることができます。

確かに、私達の頭の中においても、経営に多様性を取り入れることが企業の業績を押し上げる効果があることに対して、なんとなく肯定してしまい疑問を持つ人は少ないのではないでしょうか。では、なぜそのような思考に至るのか、考えられる理由を3つほど挙げてみたいと思います。

最初に考えられるのは、多様性と企業におけるイノベーション力の向上の結びつきです。多様なバックグラウンドや視点を持つ従業員は、様々なアイデアや解決策を生み出しやすくなる傾向があります。異なる視点からの情報や意見が集まることで、創造的なアプローチが可能となり、イノベーションが促進されます。

次に、顧客の多様性への対応が可能となります。グローバル化が進む時代においては、顧客側もダイバーシティ化が進んでいます。従業員が多様化していることで、異なる文化や背景、思想を持つ顧客への理解が深まります。

3つ目として、企業においては社会的な評価と信頼の向上が考えられます。近年は、ダイバーシティ経営を掲げる企業は、社会的に評価される傾向があります。さらに従業員や顧客からの信頼を得ることも可能であると考えらます。

その他にも、第二回で取り上げた人材不足を補う側面も持ち合わせています。このように、ダイバーシティ経営と企業業績には各種レポートに頼らずとも、正の関係性を想像することは非常に容易であることが分かります。

では、各研究機関はダイバーシティ経営と企業業績の関係性をどう論じているのでしょうか。今回はマッキンゼー社とハーバード大学による、ダイバーシティ経営と企業業績に関するレポートを確認していきます。

マッキンゼー・アンド・カンパニーは2015年1月にダイバーシティに関するレポート「Diversity Matters」を発表しました。本レポートでは企業の財務業績や経営陣構成に注目し、ダイバーシティ経営におけるパフォーマンスの特徴を8点明確にしています。特に、人種・民族的多様性・性別に関して、それぞれの比率が高いと財務パフォーマンスにおいて、高い相関関係があることを明らかにしています。しかしながら、双方において因果関係までは認められていない点も注視する必要があります。

日本においても経済産業省より、同じ2015年にダイバーシティに関する各種調査の中で、多様性(女性比率・文化的多様性)を含む企業は含まない企業と比べて、業種平均よりも優れた業績を達成する確立が高い傾向にあると発表しています。

戻りますが、マッキンゼー社においては、直近のHPにてFeatured Insightsの一つの項目としてダイバーシティとインクルージョンを掲げ、男女格差が2025年までに縮小するとGDPが12兆ドル向上すると記載しています。(出所:https://www.mckinsey.com/featured-insights/diversity-and-inclusion

HPからもみられるように、マッキンゼー社ではコンサルティングの一つの要素として、ダイバーシティ経営を注目し続けていることが分かります。

一方で、ハーバード・ビジネス・レビュー「ダイバーシティが企業にもたらす真の利益」(ダイヤモンド社 2021年)において、興味深い内容が掲載されています。それは、世界のビジネスリーダーが発信している、多様性における企業業績に対する好影響は、実は明確なエビデンスがないまま発信されており、確固たる研究結果に裏打ちされているわけではない。さらに、多様なアイデンティティによって持ち合わせた知識と経験を、学習の材料として活用すること、その上で事業の本質的な業務をどう改善するか、これこそがダイバーシティ経営の本質であると論じられています。

本レポート内では、こうした手法を「学習と効果のパラダイム」と名付けています。(「学習と効果のパラダイム」とは、ダイバーシティに対する学習志向を育むことで、企業の効果を高めることができることを意味します。)

マッキンゼー社や経済産業省のレポートから、ダイバーシティ経営と企業業績の間には、確かに正の相関関係にあると考えられそうです。私達が正の相関を無条件に考えてしまうことにも問題はなさそうです。しかしながら、ダイバーシティ経営を実践することで企業業績が向上するかどうかの明確な論拠はなく、ダイバーシティ経営を取り入れたあとの運用や学習にこそ、企業業績向上のためのヒントが隠されていると読み取れます。

つまり、ダイバーシティ経営を推進するには、単に女性、外国人、異文化を招きいれるだけではなく、多様性により得られた知識や経験を活用し、全ての人々が平等な立場で、能力が発揮できる状態にすることが大切であると考えられます。最近では、このような環境に関して「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が使われています。先ほど触れたマッキンゼー社のHPに掲載されていた言葉と同様です。

最後になりますが、ダイバーシティ経営と企業業績の間には因果関係は不明なものの、正の相関がありそうなことは分かりました。しかしながら、本当に注目すべきはハーバードビジネスレビューにあった「学習と効果のパラダイム」やダイバーシティ&インクルージョンといった言葉の意味するところになるのではないでしょうか。組織内での活用、学習、インクルージョンな環境作り、これらの要素を複合的に活性化させることこそが、ダイバーシティ経営の大きなテーマであると考えます。

本コラムでは、ダイバーシティ経営に取組む大切さへの気づきや、進めていく上で必要となる様々なファクターを2人の目線で取り上げていきます。

2023年8月23日(水)にファミリービジネス研究部会のセミナーを開催します。ダイバーシティ経営に関しても取り上げる予定となっております。詳細が決まりましたら告知しますので、ご興味のある方は是非ご参加お願い申し上げます。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次