『健康経営セミナー』報告書

 健康経営セミナー報告書
目次

今、強く求められる「健康経営」―具体的な導入方策と支援ツール―

開催場所:法政大学大学院 新一口坂校舎101教室(東京都千代田区九段北3-3-9)
開催日時:2019年5月24日(金)19:00~21:00

1. 主催者挨拶:「ファミリービジネス研究部会挨拶」

講師:玄場公規(法政大学 イノベーション・マネジメント研究科 教授)

 

ファミリービジネス研究部会で健康経営の講演を依頼すると、「“個人事業主”では“健康経営”は不要ではないか」と言われることがある。

ファミリービジネスとは、創業家が深く関与している(所有と経営が一致している)会社である。
 →個人事業でなくても、ファミリービジネスの場合がある。

・大企業は、所有と経営が分離している。
・ファミリービジネスは、所有と経営が一致している。

 企業の評判=創業家の評判である。従って、健康経営を行うインセンティブが高い。(ブラック企業と言われたくない。)ファミリービジネスこそ健康経営である。

・評判が大切。企業の永続性が大切。長期的視野に立った経営を行うインセンティブが働く。
・海外でも、ESGやSDGsなどにファミリービジネスが主体的に貢献できるとの議論もある。

 ファミリービジネスの特徴:
・意思決定が速い
・責任と権限が明確
・強いリーダーシップ

 健康経営に取り組む中小企業は3000社。その背景にはリクルート効果がある。(人手不足対策)

 

以下、新井先生より、健康経営がなぜ大切か、導入するためにどうすればよいか、支援するにはどうすればよいか、についてお話しいただく。

 

2. 講演:「今、強く求められる『健康経営』 ―具体的な導入方策と支援ツール―」

講師: 新井卓二(健康経営エキスパートアドバイザー、山野美容芸術短期大学 特任教授)

 

・経産省の地域ヘルスケア創出アクセラレータ第一期に応募したのが健康経営に関わるきっかけ。(2015年から、ヘルスケア産業課 ヘルスケアビジネス創出・支援者の育成。)

・学生向け「20歳の皆は何歳まで生きますか?」→104歳まで生きる。

・学生向け「20歳の皆は何歳まで働きますか?」→85歳以上まで働く。今後は100歳以上まで働くことが予見される。企業はその可能性を考慮して採用計画を立てるべき。

・これからの人生:仕事をしながら遊ぶ。& 学ぶ。

 これからは、21年学び、64年働き、17年老後。

 iPhoneの例にもあるが、15年経つと全く新しいサービスを提供する企業へ就職するようになる。今後就職する学生は、半世紀以上も働き続けることとなるので、継続的に学ぶ必要がある。

・健康を維持する必要

 生活習慣に起因する糖尿病:保険適用から外されることが予測される。健康保険の支給も遅くなる。健康でなければ長く働けない。

・健康経営の認定:健康経営銘柄(上位概念)、健康経営優良法人優良ホワイト500(大企業部門)、健康経営優良法人(中小規模法人部門)

 上場企業の1/4が、ホワイト500に応募するのが現状。(ホワイト企業のようなイメージがあるので企業から応募が多いが、ホワイト企業を認定しているわけではない。)

 JALが取得し、ANAが取得しないと、学生がJALはホワイト企業だと思う。(リクルート効果)

 2019年度から1業種1社のしばりがなくなった。

 中小企業は、認定を受けても“ホワイト”とは名乗れない。それでも認定を受ける企業が増えている。

 助成金や補助金の対象ではないが、それでも認定を受ける対象としては、健康経営は特出している。

 

健康経営とは:

・日本に健康経営を紹介した健康経営研究会:…従業員の健康の維持・増進と社会の生産性向上を目指す経営手法

・健康経営を主導して推進普及をする経済産業省:従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実施すること

・日本経営会議(厚労省、経産省、日本商工会議所)が認定母体

・フレデリック・テイラー『科学的管理法』:労働作業を細かく管理すれば、労働生産性が向上する。
 → 労働者は、健康でなければ働くことができない。

・メイヨー『ホーソン実験』:労働環境の変化が生産性に与える影響を調査。
 → 経営環境は、人間関係に依存する。
 → 従業員の健康管理や職場環境は、経営学においてメインではない、との位置付けになる。

・『ヘルシーカンパニー』:経営と健康管理をむすびつける。
 → 健康経営の台頭。

・『Wellness Program』:健康投資1ドルに対し3ドルのリターン。(経産省もこのデータを活用し、健康経営を推奨)

・日本では産業保健と労働衛生が大きく分離しているが、欧米では統合が進んでいる。

・従来の従業員の健康管理(厚労省)
 → 安倍内閣の意向による経産省の医療費削減の施策

・従来、健康経営度調査に回答した企業に対し上位5割を認定対象としていた。
 → 2020年度からは項目達成企業は優良法人、内上位500社がホワイト認定となる。

 中小企業部門については、相対評価は導入されない。

 

健康経営のメリット
・リクルート効果
・イメージアップ
・生産性向上

 

上場企業1000社アンケート
・生産性向上:健康経営に取り組むと向上する。
・医療コスト削減:長期的に期待する。
・モチベーション向上:有意差なし。
・イメージ向上:有意差あり。
・リクルート効果;有意差あり。
・健康経営に取り組むと、短期的には医療コストが増加する。(検診、ストレスチェック、再検診を必ず受ける。)
・離職率への影響:人間関係が離職の大きな理由である中で、健康経営による影響は小さいと考える。

 

学生から見たブラック企業
・同一労働同一賃金(責任に応じて給与に差が生じるべき)

 

学生から見たホワイト企業
・産休や育休がある(男性学生)
・子供補助制度がある(女性学生:産休や育休は当然。)

 

学生が就職を検討する際に重視する項目
1位:福利厚生
2位:働き方に配慮
3位:従業員の健康に配慮
・給与が高い、業績が伸びている(男性)
・雇用が安定、風通しがよい(女性)

あまり重視しない項目:副業制度(正社員の給与が低いと考えられる)、リカレント教育がある

 

ESG/SDGs
・経産省:健康経営への取組み=ESG投資の対象
・健康経営は、SDGsの3と8に該当

 

経営戦略としての健康経営
・取り組む必要ない。(取り組まなくても人材を集められる。)
・離職率への影響を期待しない。(ほとんど健康経営が影響しない。)
・医療費は下がらない。(長期的にも医療費は下がらない。伸び率が平均より低い、という説明は可能。)

 

官庁の参入
・経産省:健康経営/健康経営アワード/ホワイト5000
・厚労省:データヘルス(健康経営と併せて“コラボヘルス”)/スマート・ライフ・プロジェクトブラック企業リスト
・スポーツ庁:スポーツエールカンパニー
・健康優良企業(東京都)、横浜健康経営認証(神奈川)、その他自治体ごとの独自の認定制度がある。

 

大規模法人部門の認定基準:法律準拠によりほぼ達成可能。厳しい基準だが、ホワイト500以外は来年度以降緩やかになる。
中小規模法人部門の基準:要件が緩やか。

 

2019年度の健康経営度調査の項目:星印の項目への対応でよい。
・ホワイト500のために:空欄を残さないようにする。事前と事後の確認をするとよい。一人当たりの医療費の年経過を記録。モチベーション向上の測定…等

プレゼンティーズムの計算
・中小企業部門認定のために:経産省から達成項目のフィードバックなし(合否のみ)。多くの項目を(多めに)埋める必要がある。証拠写真の提出も要求される。感染症予防…など。無理なく行えることがポイント。

・協会ケンポ認定:6か月間取り組む必要がある(東京都の中小企業)。

・導入支援のアドバイザー制度(東京商工会議所)
 健康経営アドバイザー
 健康経営エキスパートアドバイザー:健康経営を広げるきっかけになっている。
 アドバイザーの派遣制度(無料)

 健康経営の導入概念
・健康状態
 ハイリスクアプローチ:数年したら病気になりそうな人へのアプローチが、一番効果的。
・ヘルスリテラシー
 イベントを行うと、リテラシーの高い人が集まるが、リテラシーの低い人に参加してほしい。強制的に介入するには、食堂で野菜を1品目増やす、階段利用の促進など。リラクセーションルームの導入も効果的。

 効果の浸透
・コミュニケーションの増加→医療コスト増加→イメージ向上、生産性向上→モチベーション向上、リクルート効果
・広報やIRの活用も効果あり。

 

3. 質疑応答

Q1
就職の際に重視する点について、副業制度はマイナス評価ではないとの理解でよいか?
A1
その通りである。優先順位として高くないだけである。従って、副業制度をうたっても、学生には響かない。

Q2
タクシー会社などの例もあるが、健康経営の効果について、実際に効果のあった例はあるか?生産性が向上したなど具体例はあるか?
A2
コンサル先の企業からは、欠勤率やリクルート効果のデータはすぐに揃う。
「健康経営を行っているが、従業員が参加してくれない」という相談もある。
タクシー会社は、健康経営だけでなく、働き方改革も実施すると良い。
具体的には、ブラック企業の方が、効果がある。生産性は下がるが、離職率が下がったり採用活動が容易になったりする。

Q3
ファミリービジネスと健康経営の関連について、事業承継を意識して健康経営を行っている企業はどの程度あるか?娘婿に承継させるために健康経営を導入した例は知っているが、他の事例を紹介してほしい。
A3
(玄場先生)そのような事例があれば逆に紹介してほしい。娘婿による事業承継はよくある話だが、継ぎたくないのに強要するのは困難。私見ではあるが、娘自身が承継するのもよい。
健康経営に惹かれて娘婿が承継するのであれば、それは素晴らしい事例である。
(新井先生)福利厚生がしっかりしていて健康経営と同様に社員の健康に配慮している中小企業もある。こうした企業は、明文化するだけで健康経営の認証が受けられる。

Q4
大手企業の1/4が健康経営に応募している点について、既に導入している企業の困りごとは何か?未導入の企業、その理由は何か?
A4
既に導入している企業の困りごとは、従業員がみんな参加してくれないことである。参加をまぬがれることはできないと従業員に理解させることが、一つ対策である。
健康経営未導入の企業については、働き甲斐のある企業を目指すことで、生産性を上げ従業員の幸福度を上げる企業もある。あえて健康経営を戦略的に選択しないのも一つの方法である。経産省は、産業分類ごとに導入率を公開している。同一産業で他企業が導入していると、横を見て自社も導入することもある。

 Q5
チェック項目のうち、達成困難なものは何か?また、どのような業種の企業が健康経営の認証取得に向けて動くのか?
A5
業種については、製造・銀行・保険が多い。保険は、健康に関連した商品を自ら開発している。製造は、安全管理と関連して項目を達成しやすい。
メディア産業は動いていない。
達成しづらい項目:中小企業は改善率を問われないので、取り組んでいるだけでよい。大企業も来年以降は取り組んでいればよいことになる。
項目としては、医療費が達成困難である。年度により凸凹感が大きく、良い数値が出ない。法律以外の項目は、制度設計を踏まえて対応する必要がある。
上場企業の多くが、数値の改善値を測定していない。まずは数値による効果測定が必要である。
反対に、生産性向上、会社のイメージ、社員の満足度などは、改善しやすい(達成しやすい)。

Q6
プレゼンティーズムの計算について。
WHOなどの計算式が推奨されているのか?資金的な内容であれば、QQメソッドとか…。有料のもの1つを含め、7つのメソッドがある。
A6
計算式はWHOと東大のものくらいとの認識であるが…推奨はされていない。
この2つの計算式を使ってそれぞれ計算した企業があるが、結果に大差はなかった。

 

 

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