出版記念セミナー『ファミリービジネスの優位性』報告書 後編

セミナー「ファミリービジネスの優位性」バナー

2018年7月24日18時より行われた玄場公規編著『ファミリービジネスのイノベーション』出版記念セミナー『ファミリービジネスの優位性~ファミリービジネスはなぜイノベーションを起こすのか~』について前後編に分けて紹介いたします。

目次

『ファミリービジネスのイノベーション』出版記念セミナーの概要

後半は本書編著者である玄場がイノベーションにおけるファミリービジネスの重要性をまとめた。

ファミリービジネスの優位性(玄場公規)

ファミリービジネス

ファミリービジネスの定義には諸説あるが、明確な定義はない。創業者の家族・親族が経営の重要な部分を占めていれば、それはファミリービジネスである。ファミリービジネスとそれ以外の企業を一般企業(大企業)と位置付ける。後者との比較による前者の特徴は、株主と経営者が一致しており、コンフリクトが起こりにくいことである。株主によるモニタリングの必要性が低い反面、経営者の“暴走”を抑止するためのガバナンスの重要度は高い。

イノベーションと企業規模

チャンドラーが一般企業(大企業)のすばらしさを説き、シュンペーターもイノベーションは大企業から起こると述べるなど、一般企業が注目される時期が続いた。ファミリービジネスは前時代的とされる風潮の中、2000年ごろから“ファミリービジネスもイノベーションを起こせるし、高いパフォーマンスを出せる”として、ファミリービジネスを見直そうという流れが出てきた。
更に、“大企業に任せておくとイノベーションが起こらなくなってきているのではないか?”との問題意識もある。しかし、大切なことは、大企業とファミリービジネスのどちらが良い悪いという話ではなく、どのようなことがファミリービジネスに期待できるかを考えることである。

日本の製造業の収益性

日本の製造業は、収益性構造が全体的に下降してきた。しかしこのような局面でも、技術力の高さに助けられ、収益性が悪化しては回復するという過程を何度も経てきた。また、非製造業と比べても、明らかに高い収益性を示してきた。特に大規模製造業は、いわゆる“規模の経済”による効果もあり、高い利益を上げていた。しかし、製造業の収益性は2008年(リーマンショック時)には非製造業を大きく下回り、マイナスに転落した。それ以降は、非製造業と同程度の水準で推移している。業種により収益性が異なるのはおかしい話なので、むしろこれが正常な状態である。
景気依存産業である先進国の製造業は、構造的な収益性低下の問題を抱えている。一方、一般に事業リスクが高いとされている金融業であっても、金融危機による収益性悪化は製造業ほどではない。

イノベーションの不確実性

製造業は、特に先進国において高いリスク(不確実性)を負う。また、イノベーション実現においても様々な不確実性を抱えている。
イノベーションの不確実性として、①技術開発の不確実性、②市場の不確実性、③ビジネスモデルの不確実性が挙げられる。つまり、「できまっか?」、「売れまっか?」、「儲かりまっか?」という3つの不確実性である。技術開発が成功しても、商品化できるとは限らない。商品化できても売れるとは限らないし、商品が売れても儲かるとは限らない。

収益性低の背景と研究開発・設備投資

日本の製造業には、研究開発投資による高度な技術力が求められている。更に、技術力に付加価値を加えた新規事業の創出にも期待が寄せられている。
研究開発の効率性や設備投資の収益性に関する統計調査の結果は、2008年までとそれ以降の期間について以下のことを示している。前者では、設備投資は利益を出してきたが研究開発は利益につながっていなかった。一方後者では、設備投資、研究開発のどちらも利益につながってこなかった。
この結果については賛否両論である。一方では、日本企業は儲からない時代にも研究開発を続けていて素晴らしいとの見方ができる。他方、黙って研究開発だけを行えばよいのではないことも示唆している。いずれにしても、もうからないから研究開発を辞めてしまえばいい、という単純な問題ではない。
FAAG(Facebook, Amazon, Apple, Google)のような非製造業の代表企業でも研究開発や設備投資を積極的に行っている。研究開発や設備投資は、製造業に限った話ではなく、先進国に共通の話題である。ただし、研究開発を行うだけでなく、利益につなげるよう戦略とマネジメントを考えていく必要がある。

ファミリービジネスによるイノベーション

従来、アメリカのキャッチアップをしていれば儲かる時代であった。日本はその典型である。しかし、今や日本はフロントランナーであり、イノベーションを行う立場にある。しかし、そこには高い不確実性がある。だからといって、イノベーションにつながる研究開発や設備投資を辞めるわけにはいかない。このリスクを乗り越えイノベーションを実現していけるのが、ファミリービジネスであると考える。
経営者の能力がビジネスにダイレクトに反映される点に、ファミリービジネスの優位性がある。意思決定が早く、責任と権限が明確であり、強いリーダーシップを発揮する土壌が存在するため、イノベーションへの投資リスクが取れる。そのようなファミリービジネスに期待したい。

出版記念セミナー『ファミリービジネスの優位性』報告書の前編を読む

 

 

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次