2018年7月24日18時より行われた玄場公規編著『ファミリービジネスのイノベーション』出版記念セミナー『ファミリービジネスの優位性~ファミリービジネスはなぜイノベーションを起こすのか~』について前後編に分けて紹介いたします。
『ファミリービジネスのイノベーション』出版記念セミナーの概要
最初に、本書で紹介したファミリービジネスにおけるイノベーションの事例を執筆した著者3名が、ファミリービジネスに関する各自の研究テーマについて報告した。
ファミリービジネスのブランド戦略(今橋裕)
製品やサービスのブランド確立は、有効な差別化戦略である。原資に乏しい中小企業にとって、ブランド戦略は容易なことではない。ブランド戦略の成功事例として、製品の差別化が特に困難と言われる豆腐業界から売上高上位に位置する2社を取り上げた。男前豆腐店株式会社と、相模屋食料株式会社である。両社とも、ファミリービジネスである。
差別化が困難な中ブランド構築に成功した上記2社の事例から、以下の点が注目される。
①トップが強力リーダーシップを携えている。②製品の品質に絶対的な自身を持っている。③売ブランドを構築するためには、販路拡大が重要課題である。④トップ営業が活路を切り開く。⑤自社の価値を分かってくれることに営業する。⑥インターネット、SNS、イベントを利用して顧客とのつながりを深める。
更に、ブランド構築における重要な経営者能力には以下のものが挙げられると考察される。
①ビジネス構築能力と潜在能力の明確化能力:最初は経営者が信念や感性を持ち、独自に潜在需要を明確化し、商品開発や営業活動を行う。②突破能力とルールブレイク能力:営業活動は、特定の百貨店など自社が築きたいブランドと同等の百貨店などに売り込む。③他社との連携力:独自性を出した後、販路の外部活用で継続的にブランドを認識させる(オープンイノベーション)。
経営者能力の研究(山﨑泰明)
企業経営における利潤の源泉は、企業内の人々の創造性である。一般従業員や中間管理職の創造性も重要であるが、やはり経営者の創造性が発揮され戦略的意思決定を行うことが最も重要である。
経営者能力に関する研究は、農業関連で多少存在するものの、論理的・体系的な科学へ昇華させるには十分なものではない。経営者機能ついては、大企業の経営者への調査などを基に、①将来構想の構築(経営理念の明確化)、②戦略的意思決定、③執行管理、の3点を切り口にまとめられている。しかし、このまとめは非常に複雑であるため、その対象をファミリービジネスに移して、経営者機能を絞り込むこととした。対象業種は、食品の容器・包装である。食品産業は誰にも身近な存在であり、それと一体化して価値を創出しているのが容器や包装であるためである。これらの引き起こすイノベーションは新たな市場カテゴリーを創出したとして“カテゴリー・イノベーション”と称される。
ファミリービジネス関して抽出した、イノベーション創出に貢献する経営者機能は以下の通りである。
①生活者目線での完治能力、②ビジネス想像力③潜在需要の明確化能力、④ビジネスモデル構築能力、⑤重量級のマネジメント能力、⑥突破能力、⑦ルールブレイク能力、⑧範囲の経済活用能力
ファミリービジネスとCSV戦略(西岡慶子)
企業がイノベーションを創出できていないことは、日本社会の大きな問題である。この背景には政府の既得権益、岩盤規制、企業の自前主義や多様化への遅れがある。クリステンセンは、現在のシステムが続くなら日本経済が勢いを取り戻すことはないかもしれないと述べている。
日本企業にイノベーションを起こさせるきっかけになるのが、CSVではないかとの仮説を立てた。CSRの社会性を一歩高くしたものがCSVである。本業により“社会価値”と“経済/企業価値”を両立させようさせようとするフレームワークであり、以下のようなアプローチがある。①製品と市場を見直す。②バリューチェーンの生産性を再定義する。③クラスターをつくる。
事例として取り上げた辻製油株式会社とコマツの2社について、上記の3つのアプローチにより考察した。前者は、廃棄物であるゆずの皮からオイルを抽出したり、バイオマスボイラーへの転換を図ったりして、企業価値と社会価値とを両立させている。後者は、自社製コムトラックスの開発により自社製建機の盗難防止対策等を講じたり、本社の一部を創業の地(小松市)に移転したりして、両価値の両立を図っている。
CSVを成功させるための戦略として、以下の5点が挙げられる。
①社会的価値を経営の高い優先順位に置くこと、②経営者の強いリーダーシップ、③オープンイノベーションまたは連携の推進、④地域との密接な関係と拠点を置く地域のサイズ、⑤システム思考。
CSVで世界をリードし得る日本の強みとしては、以下の3点が挙げられている。
①日本人が有する高度な社会性、②日本が直面する世界に先駆けた社会問題、③世界的に評価の高い日本企業の高度な技術力。
これに、“世界で群を抜いて多く存在する日本の「老舗企業」”を4つ目の要素として加えたい。