『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第五回 ダイバーシティ経営 何から手をつける?

法政大学IM総研ファミリービジネス研究部会 特任研究員
ウィズコンサルティングラボ
中小企業診断士 榎本典嗣

本コラムは、中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本と同じく中小企業診断士でもあり、社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援されてこられた瑞慶覧先生と連載していきます。

コラムは今後約3か月に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。

目次

第五回 ダイバーシティ経営 何から手をつける?

第四回では、女性活用を阻む壁について述べてきました。昨今では女性活躍が叫ばれる一方で、女性による経営への進出はまだ発展途上段階にあることが課題となっています。そこで第五回では、女性の登用をはじめダイバーシティ経営の進め方に関して説明をしていきます。

ダイバーシティ経営を成功させるのために重要なポイントは、女性、外国人、異文化を招きいれた上で、多様性により得られた知識や経験を活用し、全ての人々が平等な立場で能力が発揮できる状態を作り上げることです。つまり、多様性を受け入れる「ダイバーシティ」に加えて、個々の能力を発揮させる「インクルージョン」な環境をいかに整えるかが大切と言われています。

インクルージョンとは直訳すると「包括」「包含」「包摂」などを意味します。ビジネスにおけるインクルージョンは、企業内すべての従業員が尊重され、個々が能力を発揮して活躍できている状態を示しています。

では、「ダイバーシティ&インクルージョン」を進めるためには一体何から手を付ければよいのでしょうか。まずは、本コラムの題名にもなっている「ダイバーシティ」というワードに着目し、最適な環境を構築するための進め方やポイントをご紹介します。

  • ダイバーシティ経営のビジョンと目標の設定
    最初に手を付けなくてはならないポイントは、ダイバーシティ経営のビジョンを明確にし、その実現に向けた目標を設定することです。具体的かつ測定可能な目標を設定し、内外に向けて企業としての取組みの意思を明確にする必要があります。
  • リーダーの積極的な関与
    大企業はさることながら、中小企業では経営陣やリーダーが組織文化の形成に大きな影響力を持っています。リーダーシップの関与とコミットメントは、ダイバーシティの推進において非常に重要です。リーダーがダイバーシティに対する意識を高め、従業員に対して積極的なメッセージやサポートを提供することが重要です。
  • 教育と意識啓発
    ダイバーシティに関する教育と意識啓発を従業員に提供することも大切な要素となります。トレーニングやワークショップを通じて、様々な差別やバイアスについての理解を深め、インクルーシブな環境作りを促進させなくてはなりません。ダイバーシティに関するガイドラインも提供し、従業員が自己啓発や気軽に情報共有を行える環境を整えます。

重要なことは、経営陣が率先垂範し企業そのものがしっかりと方向性を打ち出し、全社をあげて体制やマインドセットを変える土壌を作ることだといえます。また、上記に挙げたポイントだけでなく採用プロセスの見直しや、採用したメンバーへのメンタリングやサポートの環境作り、構築した環境をPDCAでまわしていく仕組みづくりなど、成果を挙げるためには多くのプロセスを採用し推進していく必要があります。

続いて、多様性を尊重しインクルージョンを促進するための取組み方法をご紹介します。基本的に、インクルージョンの促進はダイバーシティ環境の構築推進と被る内容にはなりますので、実際に進めていく上ではダイバーシティとインクルージョンを分けて考えるのではなく、双方の概念を絡めた上で進めていくことになります。

  • ポリシーやガイドラインの策定
    インクルージョン推進のためにはガイドラインの策定が欠かせません。差別やハラスメントを禁止する明確な規定や、多様なバックグラウンドを持つ人々に平等な機会を提供する取り組みが含まれます。
  • リーダーと組織全体のサポート
    組織のリーダーが多様性とインクルージョンをサポートすることは非常に重要です。また、インクルーシブな環境を構築するためには、組織全体の関与が必要です。経営陣や管理職はリーダーシップを発揮し、ダイバーシティとインクルージョンの重要性を認識し継続してサポートする必要があります。
  • インクルーシブな文化の浸透
    インクルーシブな文化を浸透させるために、組織の価値観や行動規範を明確化し、従業員が共有できるようにします。リーダーシップや多様な意見を尊重する文化を醸成し、全ての従業員が自由に発言できる環境を作り上げます。

インクルーシブな環境構築に関しても、この3点だけで構築できる訳ではありません。前述した通り、ダイバーシティ&インクルージョンという1つの取組みとして、多くの課題に取組まなくては文化の定着を図ることはできません。

また、最近ではダイバーシティとインクルージョンというワードに加え、「エクイティ」や「ビロンギング」という概念も付け加えられてきています。「エクイティ」は公正性という考えをプラスした概念です。そして「ビロンギング」は、心理的安全性の確保された居場所を作るという考え方になります。

これらの概念が出てきた背景には、ダイバーシティとインクルージョンだけでは思うように成果が上がらないという理由が挙げられます。前述した通り、ダイバーシティ経営を推進する方法やポイントは明確にはなっているものの、検討すべきプロセスや考え方も多様性が問われ、推進し浸透させることは一筋縄ではいかないのが現状です。

また、ダイバーシティ経営への取り組みは一度きりで終わるものではなく、継続的な推進が必要です。定期的な評価と改善、多様性を提供する側と享受する側の声を聴く仕組みの確立、新たな取り組みやイベントの導入など、組織全体での意識と取り組みを維持し続ける必要があります。

いかがでしたでしょうか。ダイバーシティ経営を推し進めるためには何か必要か、少しはヒントになりましたでしょうか。ファミリービジネスにおいては特に経営陣が創業一族で固定される傾向にあり、多様性とは真逆な環境にあります。ファミリービジネスならではの経営へのプラスの面もありますが、この先イノベーティブな活動をしていくためにはダイバーシティ経営を取り入れていかざるを得ない時代が待っています。

また、多様性を取り入れ成果に結びつけるためには、リーダーが先頭に立ち、従業員も含めた企業の文化を変えていく必要があります。その中で、インクルージョン、エクイティ、ビロンギングといった様々な概念を取り入れ、柔軟な取組みを行っていくことが求められているのです。

本コラムでは、ダイバーシティ経営に取組む大切さへの気づきや、進めていく上で必要となる様々なファクターを2人の目線で取り上げていきます。

2023年8月23日(水)にファミリービジネス研究部会のセミナーを開催します。ダイバーシティ経営に関しても取り上げる予定となっております。詳細が決まりましたら告知しますので、ご興味のある方は是非ご参加お願い申し上げます。

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