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連載 第7回 ビジネスモデル

前回まではイノベーションのプロセスについて説明しましたが、今回は近年におけるイノベーションの考え方について解説します。

イノベーション戦略と新規事業創出(第7回) 玄場公規

既にこの連載で述べたが、従来、イノベーションとは技術革新と定義され、また、実務的にも、ほとんどのイノベーションを技術革新と捉えることで問題なかった。研究者の定義の代表例としては、「成功裡に商業化可能な、新しい、または、より良い製品あるいはプロセス」(Pavitt 1984)と提示され、正に技術革新が想定されていた。しかしながら、近年では、イノベーションを広く捉えるべきという考え方が提唱されている。例えば、「最初に市場に出された製品・サービス及び最初の製品・サービスが出てからその性能を向上させ、商業化されたもの」(Hippel 1988)として、サービスを明確に含めた定義、あるいは、「顧客が望む新製品や新サービスを提供するための新しい知識の利用」(Afuah 1998)、「顧客が持つ問題の解決のための、新しい情報の利用」(小川 2000)などと幅広くイノベーションを捉えた定義が提示されている。

実務においても、イノベーションを広く捉えて、イノベーション戦略を検討することが重要である。特に「ビジネスモデル」については、企業の競争優位の重要な源泉になり得るため、戦略立案において不可欠な概念である。

ビジネスモデル創出も重要なイノベーション

従来のイノベーションは、技術革新と捉えられていたため、研究開発による新しい発見や新しい技術の開発が基礎となり、それによって、新しい製品が世の中に登場したり(一般にプロダクトイノベーションと呼ばれる)、製造工程などのプロセスに大きな改善がもたらされる(一般にプロセスイノベーションと呼ばれる)ことが主要なイノベーションであると考えられた。しかし、近年、イノベーションのあり方にも大きな変化が現れている。情報技術の進展と普及によって、顧客と企業との間、あるいは企業間でやり取りする情報量が増大すると同時に、その膨大な情報量の処理が簡便かつ迅速に行うことが可能になった。そのため、画期的なビジネス上のアイデアが比較的容易かつ早期に実現し、経済・社会に大きな変革をもたらしている。すなわち、新しい技術の登場を必ずしも必要とせず、新しいアイデアを実現することによって、イノベーションを起こすことが可能になったのである。

特に、同じような製品・サービスを提供するとしても、その提供形態を新しくすることによって、既存企業を圧倒し、市場を席巻する企業が登場している。周知の例で言えば、高度な情報技術を駆使して、短納期・安価でありながら、顧客の詳細な要望に合わせた仕様のパーソナルコンピュータを提供する企業が登場し、日本のコンピューターメーカーにとって大きな脅威となった。性能の良い新しい製品を提供するだけでなく、情報技術を駆使した製品の新しい提供形態を構築することも重要になってきているのである。

すなわち、新しいアイデアに基づいて、「新しいビジネスモデルを創出すること」が新技術の開発と同様に重要なイノベーションであり、また、それが企業の競争優位の源泉になると考えるべきである。そして、ビジネスモデルの創出がイノベーションであるとすれば、繰り返しになるが、イノベーションの創出には、必ずしも新しい技術を必要としない。もちろん、ビジネスモデルが重要になった背景には、情報技術の進化と普及があり、新しい技術が必要な場合もあると考えられる。ただし、ここで認識すべきことは、新しい情報技術を開発することよりも、ビジネスモデルのアイデアにイノベーションの源泉が認められるようになってきているということである。

イノベーターの広がり

イノベーションが「技術革新」のみならず、ビジネスモデルの創出も重要なイノベーションであれば、従来よりもイノベーションの範囲が広がっていると考えることができる。そして、イノベーションの範囲が広がってくると、イノベーションを起こす主体(以下、イノベーターと呼ぶ)も自然と広がってくる。すなわち、従来のように、新しい技術の登場がイノベーションであるとすれば、主たるイノベーターは、新しい技術を開発しているメーカーである。また、職務で考えれば、メーカーに勤める研究者・技術者、あるいは、大学等の公的研究機関に所属する研究者が重要なイノベーターとなる。

ただし、ビジネスモデルの創出も重要なイノベーションということであれば、イノベーターがメーカーである必要がない。また、職種で考えれば、技術者や研究者だけがイノベーターとは限定されない。例えば、情報技術を活用して、新しいビジネスモデルを実践する企業は、技術のユーザー企業であるが、イノベーターとなることが十分可能である。そして、この技術のユーザー企業は、必ずしも技術の専門家である必要はない。そのため、技術に詳しくない人材、すなわち、技術者・研究者以外の職種の人材である営業担当者や企画担当者なども主たるイノベーターになりうる。

もともとイノベーション研究においては、以上のように「主たるイノベーターは誰か」ということは重要なテーマの一つであった。新製品開発や生産プロセスの改善が主要なイノベーションであった時代であれば、イノベーターについては、大きく分けて二つの議論が考えられた。それは、新製品や新プロセスに関わる複数の企業の中で、どの企業が主たるイノベーターなのかという議論、あるいは、その企業の中で、どのような人材が主たるイノベーターなのかという議論である。前者の議論については、例えば、自動車のイノベーションであれば、最終的に自動車を組み立てるメーカーがイノベーターであるのか、あるいは、そのメーカーに自動車部品を供給するサプライヤーがイノベーターであるのかといった議論である。後者の議論であれば、自動車メーカーの中の工場の生産者・管理者なのか、事業部門の技術者なのか、研究所の研究者なのかが分析された。

しかし、今や主たるイノベーターは極端に言えば誰でも良いことになる。誰でも良いアイデアを思いついた瞬間にイノベーターになれることになる。ただし、逆に、誰がイノベーターになるのかが事前に分からなくなってきたとも言える。それゆえ、どのようにイノベーターを見出し、素晴らしいアイデアを見える化し、それをビジネスモデルとして実現するための戦略的マネジメントが重要になると考えられる。

以上のイノベーションの範囲及びイノベーターの広がりを端的に図に示した。ただし、この図は、イノベーションの広がりを端的に表したものであり、イノベーションは、ここに示したものに限らない。また、イノベーションの広がりと同様に、イノベーターについても、ここに示した主体は例示であり、誰でもイノベーターになることができると言える。

イノベーションの範囲の広がり
イノベーションの主体(イノベーター)の広がり

(資料)著者作成


参考文献

  • Pavitt,K.,Sectoral patterns of technical change: Towards a taxonomy and a theory,Research Policy, Volume 13, Issue 6, December 1984, Pages 343-373
  • Von Hippel, E. (1988). The sources of Innovation, Oxford University Press.
  • Afuah, A. (1998) Innovation Management: Strategies, Implementation, and Profits, Oxford University Press.
  • 小川進((2000)『 イノベーション の 発生論理-メーカー 主導 の 開発体制 を 越 えて-』 白桃書房。

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本連載の一覧については、連載『イノベーション戦略と新規事業創出』をご覧ください。

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