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連載 第2回 イノベーション戦略の定義

イノベーション戦略のイメージ

前回は、イノベーション戦略は決して難しいものではないというところまででしたが、今回はイノベーション戦略の定義をおこないます。

イノベーション戦略と新規事業創出(第2回) 玄場公規

まずは、「イノベーション」と「戦略」について考えてみよう。当たり前に使われている用語ではあるが、様々な定義があり、また、誤解も多い。

イノベーションとは

企業にとって、研究開発は、イノベーションを実現し、収益を得るために行われる活動である。この点、良く知られているように、シュンペーターは、イノベーションを「知識の新結合」であるとした(Schumpeter 1934)。ただし、この定義は、あまりにも広く、分かりにくい。それためか、従来、イノベーションは「技術革新」と訳されてきた。また、これは辞書にも載っている。しかし、シュンペーターの定義とは異なり、ある意味、日本で登場した造語である。ただし、従来は、イノベーションを「技術革新」であると考えても、その実態を表していたため、問題がなかった。すなわち、多くのイノベーションは、高度な技術を開発して、新しい製品や製造プロセスを実現し、世の中に革新をもたらす、正に「技術革新」がほとんどであった。

しかしながら、近年、新しいサービスや新しいビジネスモデルの創出なども重要なイノベーションと考えられている。ここでは、必ずしも新しい技術は必要ない。また、新しい技術を「利用」するかもしれないが、少なくともの新しい技術の「開発」は必要ない。そのため、「技術革新」という概念だけでは、イノベーションの実態を捉えることができない。そこで、イノベーションの定義も広く考える必要がある。

この点、そもそも、企業は、顧客から収益を得ることを目的としてイノベーションの創出を目指している。そして、顧客は何かしらのニーズや課題があり、そのニーズが満たされる、あるいは課題が解決させることから、イノベーションに対して、お金を支払っていると考えられる。もともと、イノベーションの定義は知識の新結合であるが、知識が結合されることだけでは、顧客はお金を支払うことはない。課題解決のために、結合された知識が顧客の課題解決に結びつくことが不可欠である。これらを踏まえると、イノベーションは「顧客の課題解決のための新しい知識の利用」であると考える方が適切である。この点については、後の連載でも説明するが、近年の非製造業によるイノベーションを踏まえれば、「技術革新」という定義よりも実態を捉えていると考えられる。

戦略とは

戦略は、まず、具体的な競争相手を想定し、その競争相手よりも競争優位になることを目的として、立案・実行されるものである 。すなわち、「競争すべき相手がいるから」こそ、戦略が立案されることが大前提である。ただし、実務的には、具体的な競争相手を想定していない戦略を見ることができる。端的には、例えば、行政機関や業界団体において、「戦略」と明示された報告書が多数提示されている。その重要性を否定するものではないが、ほとんどは、競争相手を具体的に想定した「戦略」ではなく、将来の「政策ビジョン」や「業界動向」と呼ぶべきものが多い。企業の経営戦略や技術戦略なども、具体的な競争相手を想定せずに将来の「事業計画」を抽象化したものなどが多いのではないだろうか。

また、競争相手と同じことをしていては競争優位を確立することは難しい。競争相手とは、異なる「何かに集中する」ことが必要であるが、その指針を示されなければならない。そこで、戦略とは、「競争相手に対して競争優位を確立するために、何をすべきかを選択した指針」であると考えるべきである。

従来の日本企業においては、戦略は必要ない、あるいは、少なくとも、戦略の重要性は低いという考え方も可能であった。ただし、それは、日本経済の高度成長期という時代の特殊性に起因するものである。高度成長期の日本企業の競争相手は、主として欧米企業が想定され、欧米企業に追いつくことが戦略的な目標であった。また、具体的な戦略課題として、欧米企業よりも、新しい技術を開発し、より性能が高く、より安い製品を提供することであった。この時代には、競争相手が明確であり、その戦略課題も自明であったのである。そのため、日本企業には戦略が必要なかったというよりも、敢えて戦略を考えなくても、戦略的な行動が可能であったということになる。また、本来、身近な競争相手である日本国内の同業他社は、欧米企業という同じ競争相手を持つ同志であるとさえ捉えることができた。そして、日本国内の市場が拡大を続けていれば、十分な成長・収益性を確保できたのである。この時代には、研究開発を実施する技術者・研究者は、技術の専門家として、開発に専念することが求められていた。

しかしながら、周知のように、日本企業は、欧米企業に追いつき、いわゆるフロントランナーとなった。そのため、欧米に追いつくという共通の目標は意味が無く、各社独自の目標を設定し、戦略を考える必要が出てきた。また、新興国を中心に、多数の企業が市場に参入し、日本企業を追い上げてきている。同じ市場に多数の競争相手がおり、また、目標は明確ではなく、かつ、目標を実現する手段の選択肢も多数あるという状況になったのである。

イノベーション戦略

以上を踏まえれば、イノベーション戦略とは、「イノベーション」と「戦略」の定義を繋いで、「競争相手に対して競争優位を確立することを目的として、顧客の問題解決のための新しい知識の利用のために何をすべきかを選択した指針」となる。

日本の製造業においては、世界トップレベルの高度な技術力があるが、収益性は低迷しており、近年では、戦略の重要性は認識され始めている。しかしながら、上記の定義のように明確に競争優位を確立するため、または、顧客の問題解決を意図して、さらには、選択的な指針を明確に示している企業は多いと言えるだろうか。そもそも、イノベーションに結び付く活動は、その特性として、人事、経理、購買、営業等の他の企業活動に比べて、目に見える成果が短期的に出てこないため、マネジメントが困難であるという側面がある。そのため、企業トップが明確に戦略の指針を示すのが容易ではないことも踏まえなければならない。

次回以降は、イノベーションを創出するまでの不確実性を説明しよう。この不確実性を克服して、イノベーションを創出するためにも戦略的マネジメントが不可欠であることが理解できるはずである。


参考文献

Schumpeter, J.A. (1934). The theory of economic development : an inquiry into profits, capital, credit, interest, and the business cycle, Harvard University Press. (塩野谷祐一, 中山伊知郎, 東畑精一訳『 経済発展 の 理論 : 企業者利潤・資本・信用・利子 および 景気 の 回転 に 関 する 一研究』 岩波書店、 一九七七年)


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本連載の一覧については、連載『イノベーション戦略と新規事業創出』をご覧ください。

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