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連載 第3回 イノベーション創出までのリスク

イノベーション戦略と新規事業創出

前回は、イノベーション戦略を定義しましたが、今回はイノベーション創出までのリスクについて説明します。

イノベーション戦略と新規事業創出(第3回) 玄場公規

イノベーション創出までのリスク

ノベーションを創出するまでには様々な不確実性を克服しなければならない。この当たり前のことを念頭に置かなければ、戦略的マネジメントを立案できない。

ジョルジュ・アウーは、イノベーションには、①技術のリスク②市場のリスク③ビジネスモデルのリスクの3種類のリスクが本質的に内在していると指摘した(Haour 2004)。そして、リスクが大きいがゆえに、必然的に、技術系企業の経営者は、イノベーションへの投資を躊躇する傾向があると主張している。

少しでも技術開発関連の業務に従事した経験があれば、技術開発へ多額の投資をしても、それが必ず成功するとは言えないことは実感している人が多いと考えられる。これが技術のリスクである。また、研究開発が成功して、製品の商業化に結び付いても、それが売れないことも十分に考えられる。これが市場のリスクである。さらに、製品が売れたとしても、数多くの企業が参入し、すぐに値段が下がり、十分な投資回収ができないことも、多くの日本企業が経験している。あるいは、流通コストの問題や、小売企業からの値下げ要求なども重なって、収益が得られないことも考えられる。これらは、ビジネスモデルのリスクと捉えることができる。

このようにイノベーションを目指した技術開発は、本質的にリスクを内在した投資活動である。ただし、従来の日本企業は、これらのリスクが相対的に低かったため、そのリスクが十分認識されていなかっと考えられる。前述のように、欧米企業がフロントランナーの時代であれば、既に、欧米企業がイノベーションで成功している例を十分に知ることができる。すなわち、どのような製品において、どのような市場が存在しているのか、また、その製品をどのようなビジネスモデルで販売すれば、収益を上げることができるのかということが明確だったのである。すなわち、ここでは、市場のリスク、ビジネスモデルのリスクは著しく低く、技術のリスクしか存在していない。研究者・技術者は、明確な研究開発目標が与えられ、その目標を早く達成することが戦略実現のための必要十分条件であったと考えられる。

しかしながら、現在の日本企業はフロントランナーになってしまった。これ自体は決して悪いことではない。ただし、フロントランナーになったが故に、初めて市場に登場する製品を開発することになり、技術のリスク以外にも、市場のリスク及びビジネスモデルのリスクにさらされることになる。また、逆に、日本企業を追いかける新興国企業は、日本企業の市場とビジネスモデルを学ぶことができ、技術レベルを向上させれば、収益を得ることが可能になる。それゆえに、日本企業は、より新しい高度な技術開発に挑まざるを得ず、あるいは、新しい市場の開拓や新しいビジネスモデルを創出することが必要となり、結果として、イノベーションのリスクは、より大きくなる傾向にある。

イノベーションを創出するまでには、多様なリスクが内在しているため、ここで全てを紹介することは困難であるが、代表的な例を図表に整理した。ここでは、概略として、イノベーションのリスクの種類・要因とその課題を示している。

まず、技術開発者であれば誰でも思いつくことであるが、技術開発の成否に関わるリスクがある。開発に投資を行っても、当初の計画通りに研究開発目標が達成できるとは限らない。このリスクは従来から広く一般に認識されている。また、その要因としては、開発している技術が未成熟であること、あるいは、そもそもの研究開発目標の設定の誤り等が要因になっていると考えられる。もちろん、イノベーションに関するリスクは、ここに掲げたものに限定されず、数多くのリスクが考えられる。

研究開発リスクの整理

リスクの種類要因課題
技術開発の成否技術の未成熟
目標設定の誤り
技術開発のリードタイムの長期化への対応
(経営トップの投資判断)
イノベーションサイクル破壊的イノベーションの登場
商流の固定化
イノベーターのジレンマの回避(持続的イノベーションと破壊的イノベーションの見極め)
外部への依存研究開発投資の減少
投資の集中と選択
部品・ソフトウェアのモジュール化
コア技術の見極め
外部の研究開発成果の評価
(ブラックボックス化の回避)
デジタル化情報化の進展
情報の共有化の要請
安易なデジタル化の回避
設計・開発成果の評価・検証

(資料)筆者作成

企業のイノベーションのあり方も、大きく変化しているが、これもリスク要因となっている。例えば、近年、イノベーションのサイクルが早くなってきていると言われる。具体的には、新しい技術、新しい製品が短期間で次々と登場している。これ自体は、消費者にとって悪いことではないが、開発企業にとっては、従来の技術を高度化するための努力を行っている途中で、他企業が抜本的に異なる技術を開発し、その技術が市場を席巻するというリスクを抱えているということになる。

また、研究開発の新しい形態として、データをデジタル化し、それを徹底的に活用する研究開発活動のデジタル化が進展している。これは研究開発活動の効率化でもあり、また、そのデジタルデータを企業間で共有することも強く要請されている。そのメリットを否定するものではないが、デジタル化に伴うリスクが軽視されていると指摘する研究がある。この点については次回に説明しよう。

イノベーションのリスクとしては、近年、イノベーター(イノベーションを創出する主体)のジレンマという概念も良く知られている。クリステンセンは、既存製品の性能を高め、主要顧客が評価する技術進歩を「持続的イノベーション」と定義し、それとは抜本的に異なる「破壊的イノベーション」の登場によって、成功した優良企業が市場を奪われる可能性があると指摘した(Christensen 1997)。破壊的イノベーションとは、「従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらす」ものであり、「少なくとも短期的には、製品の性能を引き下げる効果を持つイノベーション」が多く、成功した優良企業は、破壊的イノベーションに当初は注力せず、対応に遅れる可能性を指摘している。

このような破壊的イノベーションが登場して市場を奪われるのであれば、成功した実績ある企業の開発努力は無駄になってしまう。特に、クリステンセンは、イノベーターのジレンマに陥る要因として、顧客の声が主要因の一つであり、バリューネットワーク(商流)も重要な要因になることを示している。すなわち、破壊的イノベーションが登場して、従来の商流を変更しなければならないとしても、大企業は、既存の商流が強固であるが故に、それを変更することができず、破壊的イノベーションへの対応が遅れるということである。特に、日本企業においては、顧客企業、部品・ソフトウェアのサプライヤーとの関係が強固であるとされる。そのため、この指摘は、日本企業にとってこそ重要である。


参考文献

  • Haour, G. (2004) Resolving the innovation paradox : enhancing growth in technology companies, Palgrave Macmillan. (サイコム・インターナショナル 訳『 イノベーション・パラドックス : 技術立国復活 への 解』 ファーストプレス、 二〇〇六年)
  • Christensen, C. M. (1997) Innovator‘s Dilemma : When New Technologies Cause Great Firms to Fail, Harvard Business School Press.( 伊豆原弓訳『 イノベーション の ジレンマ― 技術革新 が 巨大企業 を 滅 ぼすとき―』 翔泳社、 二〇〇一年)

今後の参考にさせていただきます。本稿がよかったと思われる方は「いいね」を押していただければ誠に幸いです。

本連載の一覧については、連載『イノベーション戦略と新規事業創出』をご覧ください。

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